セス・ディキンスン “Kumara”

2014年3月 Escape Pod 441号に初出。
分量およそ5400語、日本語訳なら文庫25ページくらい。

あらすじ

〈機神〉の〈夢〉を盗んだ宇宙船〈クマラ〉は放たれた刺客〈亡霊〉に追われていた。追跡を振り切る処理能力を得るには、演算負荷の高い仮想空間〈天国〉で走るクルーのアップロードをひとり分削除する必要がある。誰を犠牲にするか選択を委ねられたシステム管理士にして唯一生き残った人員である「私」は天国を訪れ話を聞いて回る。結局誰も選べなかった私はクルーの精神構造に手を加える禁を犯し、負荷を下げようとするが。

登場人物

クマラ Kumara
船載知能。

語り手。システム管理士。
シロマ Shiroma
船長。
エレン・マシューズ Ellen Matthews
暗号学者、言語学者
ラフール・ジャヤラマン Rahul Jayaraman
役職不明。
ネイサン・ランドヴァター Nathan Landvatter
兵器のスペシャリスト。

感想

  • 冷たい方程式もの。the cold equation のフレーズがまんま本文中で使われている。
  • 精神アップロードは静的な状態で保存できず、精神の健全性を保つには肉体と環境を緻密にシミュレーションし続けなければならないので、演算資源を食う。アップロードに本人が既に死んでいることを告げるのはご法度、という設定。その割に各人が設定している仮想世界の状況は非現実的で、ちょっとちぐはぐな感じはした。
  • 機神から盗んだ夢とはなんなのか、「私」は誰に向けて語っているのかという謎がオチに関わってくる。面白いツイストにはなっていない。
  • 作者はトロッコ問題的シチュエーションが好きなようだが、犠牲を払ってでも達成すべき使命がぼんやりしていること、各クルーの人となりはほぼわからないことが相まって、読んでいても身が入っていかなかった。登場人物の数を絞るなりして、葛藤がもう少し真に迫っているとよかった。