デイヴィッド・モールズ “The Third Party”

Asimov's Science Fiction 2004年9月号に初出。
分量およそ12000語、日本語訳なら文庫60ページくらい。

あらすじ

星間ディアスポラから1万年、他の植民星系から隔絶し、文明が後退した惑星サロメ。宇宙に散った人類文明のひとつ〈共同体〉から派遣された伝導団〈アウトリーチ〉はサロメの現地国家にエージェントを浸透させ、〈共同体〉に引き入れる準備として科学知識の普及や反体制活動にあたっていた。秘密裡の改革を始めて数年が経ったころ、別の星間文明〈社団〉のマージナル社がサロメに来訪し、表立って現地政府との交渉を始めたことで状況は一変する。アウトリーチ内部では任務を断念しサロメから撤退すべきとの意見が優勢になっていたが、エージェントのひとりキケロにはサロメを離れるわけにはいかない理由があった。

登場人物

アレキサンダーキケロ Alexander Cicero
〈共同体〉の伝導団員。経済学者。
フィリップ・マリウス Philip Marius
キケロの仲間。
タリア・ザンテ・トゥレイ゠ラウリオン Thalia Xanthè Touray-Laurion
現地人の数学者。キケロの恋人。
特別捜査官 The Special
特別警察の男。
アレン・マクレーン Allen Macleane
マージナル社の社員。

感想

  • 封建的な植民惑星を舞台にしたエスピオナージュというとストロスの『シンギュラリティ・スカイ』が思い浮かぶけれど、あれに比べると凄まじく地味。つまらなかった。後年の短編と違ってガジェットらしいガジェットも出てこない。ユーモアが薄いのも好みから外れる。
  • 恋人タリアに対するキケロの執着というか未練というか、そこらへんを納得できるだけのエピソードがなくて、あっさり撤退するわけにはいかないというストーリー上重要なはずの葛藤の輪郭がぼんやりしている。かなり地道で迂遠な改革を進めるアウトリーチの使命感の源もよくわからなかった。
  • 知識の見返りに芸術作品等の知財を要求するマージナル社の方が、商人気質のエイリアンとかそういう類型で呑み込みやすい。
  • サロメの科学は光速度不変の原理が論じられているような段階。タリアは実数が非可算集合であることを証明している。カント―ル並みの天才ということらしいのだが、この天才設定もあまり活きていない。
  • アウトリーチの宇宙船の名前は公正 Equity と連帯 Solidarity で、マージナル社の宇宙船は弾力的需要 Elastic Demand。