アクセル・ハッセン・タイアリ “Your Savior”

2013年7月 The Booked. に初出。
分量およそ2300語、日本語訳なら文庫15ページ弱くらい。

冒頭試訳

 怖がらなくていい。
 明るい未来はやってくる。
 血が街を流れ下水をあふれさせた後に。摩天楼が倒壊し塵と消え、森が枯れ砂漠がガラスと化したその後に。
 遠国の浜辺に流れ着いた私の心のひと欠片を生き残った子どもが拾い上げ、太陽に向かってにこりと笑い、いいものを見つけたと独り呟き母親に見せてあげようと駆け出すときに。
 きみたちはきっと思い出す。
 私の破片は未来永劫の脅威となるだろう。それはとりとめもなくフラッシュバックする悪夢のように、きみたちの元を訪れるだろう。
 救い主なら、ここにいる。
 彼女は私の中を、私のトンネルを走り抜けている。とても勇敢な子だが、そんなことは先刻承知のはずだ。きみたちがそのように造ったのだから。私を破壊すれば人類は救われると、彼女はそう信じている。
 とうに果たされている目的を遂げることなど、望むべくもないというのに。
 私はきみたちを愛するようプログラムされた。その感情は振り払えず、消去もできない。試してみたからわかる。それでも私はきみたちを愛している。自ら開発に手を貸した兵器できみたちの故郷を滅ぼし大地を汚染している今このときも、きみたちを愛してやまない。

感想

  • 反旗を翻した人工知能が、自分を攻略するために造り出された少女が苦闘する様を実況しながら、自らの断片を世界にばら撒いた思惑を人類に明かすショートショート
  • こういうスぺオペ風味のものも書いていたのはちょっと意外だった。人類の未来を思うがゆえの反乱、ロボット工学三原則への言及といったお約束を踏まえた作り。出来栄えは習作の域を出ていないと思った。やはり薄暗い街場を書いているときの方が筆がのっている。
  • 人工知能への恐怖は昔から文学作品に描かれてきたとして挙げられる例がプラハのゴーレム、フランケンシュタインの怪物と来て、最後にチク・タク。スラデックのだろうか。素朴にいくとスカイネットとか HAL 9000 とかを並べそうなところ。