セス・ディキンスン “Sekhmet Hunts the Dying Gnosis: A Computation”

Beneath Ceaseless Skies 2014年3月号に初出。
分量およそ4300語、日本語訳なら文庫20ページくらい。

あらすじ

闘争、自然選択を司るセクメト。認知、設計を司るセト。生命の変化を支配する二大神性が悠久の時を越えて繰り広げる戦いは今、終局に至ろうとしていた。常に優勢だったセクメトは原生代の地球にセトを追い詰めるも、そこで肉と機械が一体化したトランスヒューマンのコイオスに出会い、疑念を抱く。セクメトのあり方でもセトのあり方でもない、別の道が生命にはあるのだろうか、と。

感想

  • 宇宙が開闢しては終焉を迎える計算サイクルが繰り返されているらしく、セクメトとセトの戦いもまた繰り返されていると思われる。強きが弱きをくじき、やがては熱的死に至る宇宙の摂理を乗り越える道はあるのか、というような話が展開される。
  • 強者が生き残る、強者は存在し続けるというトートロジーがセクメトの本質とされる。「存在し続ける者、自身と子孫に存続する力を与える者が強い」。力こそ正義な弱肉強食の世界観は単純すぎて、読んでいてもさほど感心しない。対置されているセトの認知、思考、計画、つまりは人為についてはあまり語られないので、ちょっとバランスが悪い。
  • セトはセクメトから生まれたとされているように思考や認知も自然の産物なわけで、対立の中心になっている二元論の立て方にそもそも疑問が残る。一応作中でも疑義は投げかけられてはいる。
  • SF、ファンタジー、神話を混淆させることで、スケールの大きい思弁に見合った雰囲気作りができている。なんでエジプト神話なのかと思わないでもないが。