デイヴィッド・モールズ “The Memory of Water”

Strange Horizons 2003年10月号に初出。
分量およそ7200語、日本語訳なら文庫35ページくらい。

あらすじ

1943年、北アフリカの砂漠にあるという幻のオアシス〈アル・ヒジュル・アル・カンナース〉を発見すべく、ナチスの研究機関アーネンエルベ所属のアイスタウヒャー中佐を隊長とする遠征調査隊が派遣された。道中、トゥアレグ族の襲撃で銃兵を何名も失うも、一行はどうにか目印である沈没しかけの船のような岩に辿り着く。だが、岩にあいた洞窟の中で待っていたのは泉ではなく、飛行機で先行していたパイロットの溺死体だった。

登場人物

カール・オールマイアー Karl Ohlmeier
語り手。ドイツアフリカ軍団所属の諜報員。語学力を買われて遠征調査隊に加わる。
ヨアヒム・アイスタウヒャー Joachim Eistaucher
遠征調査隊隊長。SSの先祖遺産・古代知識研究機関アーネンエルベの一員。
ゴットハルト・レーバー Gotthard Leber
考古学者。
フィートラー Fiedler
ドイツ空軍のパイロット。

感想

  • 戦後になってアメリカに帰化した86歳の語り手が60年前の調査行を回想する。ホメオパシーの根拠とされた「水の記憶」、ナチスが信じた「宇宙氷説」など水に関わる疑似科学を材料にした怪談風味の冒険小説。
  • 乾いた砂漠の洞窟に水が湧き、太古の記憶を宿す水の呼び声に眩惑されて入水に誘われる、という怪奇現象に語り手は襲われる。妙な死体という謎に対する答えが怪現象なのはちょっと拍子抜け。
  • 魔に魅入られそうになって辛くも難を逃れた人が当時を語り、結局逃れ切れていなかったことがわかるという話の構図はよくある感じのもの。話自体に曖昧なところはないが、記憶というテーマにはさほどアプローチしていないように思えて、すっきりしないものが残った。回想録形式の良さもあまり出ていないような気が。