Lightspeed 2022年7月号に初出。
分量およそ6700語、日本語訳なら文庫35ページくらい。
あらすじ
建築家・彫刻家のレオ・グレゴリイの自宅スタジオが荒らされ、作成中の彫刻が破壊された。やがて彼が手がけた街中のオブジェや建造物も被害に遭っていることが判明する。これはただの偶然か、あるいは何者かの陰謀か。
感想
- 近未来のカナダを舞台にした探偵小説風のサスペンス。実在する建築家からの依頼で書いたのだとか。執筆の経緯からか建築やオブジェがいくつか出てくる。
- バイオハッカーが遺伝子工学で作り出したゴーレム症(線維異形成症)、硫化水素を使った冬眠療法、アンチナタリストによる自動運転パトカーへのハッキング、左派の結社によるIoT冷蔵庫へのハッキング、アラスカ痘の流行など、情勢の設定はお馴染み(2017年頃からサル痘の蔓延を作品に取り入れていたが、現実になったことで読者からは流行りに飛びついたように見えると愚痴っていた)。
- 珍しく芸術家を主人公にしているが、運指やステップを意識すると損なわれるパフォーマンス、睡眠がもたらすインスピレーションといった話は変わり映えしない。ありものでこしらえた感じ。侵入と損壊の真相は意表を突くものではあるが、かなり無理があると思う。苦笑いするしかなかった。
その他
気になった表現や固有名詞。
Objects in the rear-view mirror are farther than they appear.
才能の衰えに世間が気づくのも時間の問題だと述懐する冒頭の一節。farther ではなく closer ではないかと思うのだが、何か意味合いを取り損ねているかもしれない。
function squashes form.
形態は機能に従う Form follows function のもじり。作中では気候変動に対応するため建物に強度が求められがち。
xenomorph
映画『エイリアン』シリーズから。
masturpieces
レオがウォーミングアップや手慰みのため実験的に試作している作品。
BSB
Broad-Spectrum なんたら。接触確認用リストバンドのようなので、広域スペクトル(抗ウイルス)バンドか。
Honda Kamakiri
警備ロボットらしい。日産の車も出てくる。謎の日本びいき。
murmuration
ムクドリの群体飛行。
nearest-neighbor algos
群体飛行を実現しているルールを再現したアルゴリズム。
The Cocooning
巣ごもり。
Borg cube
『スタートレック』シリーズに登場する宇宙艦。
Homicidal somnambulism
殺人が関わる夢遊病。
Hopf bifurcations
ホップ分岐。