アクセル・ハッセン・タイアリ “Jamais Vu”

2016年7月 Soul Standard に初出。
分量およそ11000語、日本語訳なら文庫55ページくらい。

あらすじ

相貌失認症の写真家ジュール・レーテは人身売買組織に誘拐された娘アメリを探し続け、誘拐された子どもが見つかるたびそれが娘でないことに落胆する日々を送っていた。今回逮捕された末端の誘拐犯の自白を基に刑事ワトソンと向かった廃工場で見つけたのは、子どもの遺体と生き残りの少女だった。ジュールは遺体の写真を撮り、これまで集めてきた資料とまとめて公表して世間に変革を働きかけようとする。

感想

  • 初出本は金融街、歓楽街、郊外、ゴーストタウンの4地区からなる〈シティ〉を舞台に4人の作家がそれぞれ中編を書いたシェアードワールド・アンソロジー。本作の割り当ては夏のゴーストタウン。権力は腐敗し治安は崩壊、貨幣が価値を失い、代わりに麻薬や臓器がやりとりされる悪徳都市、という典型的な暗黒社会設定。
  • 相貌失認症の男がさらわれた娘を探し求めるという設定だけ聞くとエモーショナルで面白そうだが、実際はシンプルな探偵物語でひねりがなく、いまいち楽しめなかった。情報を引き出した、次の取引予定地に行った、子どもの死体を見つけた、それを公表したら社会が動き出した、と直線的に進むだけというか。相貌失認も娘の顔を部分で記憶しているという以上のものではなく、過去のエピソードや悲嘆について普通の父親との差異があまり見出せず、活かされているようには思えなかった。
  • 街が改善に向かう一縷の希望が見える結末は他の中編も読んでないと感慨が薄いのかもしれない。こちらの読み方も悪かった。他と比べると分量的にも短めでエピローグ的な立ち位置に見える。
  • 娘の目は最初の方だと緑と記憶しているのに結末では青になっていて、それは生き残った少女の目の色。ミスにしてはお粗末だし何か意味があるのかもしれないが、よくわからない。