パオロ・バチガルピ “Efficiency”

2021年2月 Cities of Light: A Collection of Solar Futures に初出。
分量およそ5900語、日本語訳なら文庫30ページくらい。

あらすじ

ソーラーパネル等を活用した小さなコミュニティ単位での自給自足電力網 HoodElectric のパイオニア、エイブリー・ブラックを父に持つジェイムズは、父の宿敵である電力会社に勤めていた。ある日、ジェームズは会社の電力供給効率化AIルーシーから父と話をしてみたいと頼まれる。

感想

  • 太陽光発電と都市をテーマとしたアリゾナ州立大学の科学・想像センターの企画に参加したもの。
  • ライフラインを市民の手に握らせる変革を主導した父、親の功績のメンテナンス以上の新しいことをしたいと袂を分かつ息子、父の意外な過去といったドラマは最低限備えているが、基本的にはクリーンエネルギー社会のスケッチな印象。陰気さがないのは珍しいが、可もなく不可もない。
  • 高層ビルにいくつも備えつけたウェイトを自然エネルギー発電の余剰電力を使って吊り上げて、位置エネルギーとして蓄電している。落下時にはフライホイールに充電する。こういうメカニカルなのは絵なり映像なりの方が映えるかな。
  • ルーシーは Large Utility Calibrated Yield の頭字語。何ピコ秒も待たせないでくださいとかミートピープルは愉快だとか、テンプレAI仕草を見せる。配電効率化システムになぜ人格が、と思わないでもない。
  • 巨大な電力システムから脱却し、経済の効率性とは違った豊かさを希求する一種のユートピア像が描かれている。
  • バチガルピが海外SF傑作選に載らなかったのは少し意外だった(別に気に入っているわけではないが)。と言っても2010年代の短編はいまいち冴えないのも確か。どれかひとつ選ぶなら “American Gold Mine” だろうが、露骨な社会風刺ピカレスクでSF色が薄いのがネックか。