アクセル・ハッセン・タイアリ “A Light To Starve By”

2010年1月 Eternal Night: A Vampire Anthology に初出。
分量およそ8000語、日本語訳なら文庫40ページくらい。

あらすじ

対吸血鬼用ワクチンの登場で人間の血は毒性を得た。吸血鬼たちはクランを結成し、ワクチン非接種の清浄な人間を地下で家畜のように囲い、血絞りと販売の稼業を営むようになる。クランに属さない一匹狼の「俺」は、強盗で血液購入資金を賄いながら飢えをしのいでいた。かつて恋人だった人間の女の無事を確かめるのが日課だったが、ある日いつもならついている女の家の明かりが消えていることに気づく。中に踏み込むと教会のハンターと遭遇、格闘の末に女がさらわれたことを知る。「俺」はハンターの潜伏場所へ襲撃をかけることを決意する。

感想

  • 吸血鬼や狼人間、超能力者が存在する世界が舞台のノワール
  • 台詞に引用符を使わない静謐な文体。戦闘シーンは長めのパラグラフで応酬が細かく描かれていて、字面の上でも濃密な印象を与える。語り手が苛まれる飢えの描写はひりつくような情感に富んでおり、しっとりとした夜のパリも雰囲気たっぷり。静かな緊張感に満ちたシックな文章が全編で冴えている。
  • 電波に害されて都市にいられなくなった超能力者の一部は、脳にチップを入れて都市で暮らせるようになることと引き換えに教会のハンターとして使役されている。
  • 歳を重ねるのを何十年も密かに見守ってきたかつての恋人を救い出すという大筋こそシンプルだが、ベタな話をきっちりスマートにしつらえているところが美点。