2014年7月 Bastion Issue 4 に初出。
分量およそ4900語、日本語訳なら文庫25ページくらい。
あらすじ
工作員のエマニ・リオは東部合衆国の官製ソフトウェア消去プログラム、デガウサーの奪取を企業国家から依頼される。着々と準備を進める最中、人工知能の〈テラー〉がデガウサーを譲渡してほしいと打診してきた。見返りは亡き夫と息子の姿を収めた膨大な公共映像記録だ。任務の過程で過去の記憶を失ったエマニにとって、ふたりを思い出すよすがとなるデータは大きな意味を持っていた。契約に背き、回収したデータキューブを手にテラーが待つ南アフリカへ向かったエマニに、企業が差し向けたドローンが迫りくる。
感想
- スタイリッシュな文体で展開をコンパクトに詰め込んだ近未来テクノスリラー短編。全文が公開されている。
- 戦車、エクソスケルトン、兵士にドローンといった厳重な護送部隊がハッキングとEMPであっさり無力化されるところは都合がいい気もするが、ブラックホールから切り出したような三角形のジェット機が空に自己複製ナノジャマーを撒いて衛星の目を塞ぐ絵が素敵だし、とにかくテンポが小気味良い。
- AIのテラーはデータを食わせまくって未来予測させようという構想の遺物で、計画が頓挫した後は信奉者が南アフリカの地下施設で運用している。エマニはテラーを外部記憶装置として利用し、夫と息子の思い出を整理している。
- 東西で分かれていると思しき合衆国、世界中に何千万もの従業民を抱える独立企業国家、疫病をもたらした過去の核爆撃といった2069年の情勢がさらりと書かれている。パリ‐ワシントンDC間3時間未満のシャトルとか知識をロードするチップとかも出てくる。
- 家族への思いを軸にしているところ、テラーがデガウサーを求める理由あたりはよくある感じではあるのだが、短い分量で格好良く仕上がっている。映像的。