パオロ・バチガルピ “Mika Model”

2016年4月 Slate に初出。
分量およそ4400語、日本語訳なら文庫25ページ弱くらい。

あらすじ

警察署にリヴェラ刑事を訪ねてきた少女は性的用途に使われるロボット〈ミカ・モデル〉の一機だった。ミカは弁護士をつけてほしいと言い、持参したバッグから血塗れの男の生首と凶器のナイフを取り出した。

感想

  • バチガルピは短編が面白いイメージだったけれど、これはいまいち。
  • 持ち主の富豪から「おまえの行動は全て偽物だ」と罵られ拷問を受けていたミカは、それなら本物と言えることをしてやろうと殺害に及ぶ。大邸宅の地下室、棚に並ぶ手術器具、木製の十字架というこてこてなシチュエーション。
  • 世界中に何万体も散らばった各機体は学習データを常時アップロードして共有し、夜ごとの更新で対象をたぶらかす手管を洗練させている、という設定は今風。一方でロボットが「自分には個性がある」と主張する古風な筋でもある。
  • 焦点となるのは『BEATLESS』におけるアナログハックのようなもの。ミカはあの手この手でユーザーを巧みに誘惑するが、それはソフトウェアの計算が導き出した行動であって「本物」ではない、という考え方。皮膚には神経が通っていて血も流れているから痛みを感じる、とミカ当人は主張。指紋で扉を開錠する描写がある。半生体っぽい。
  • 印象が悪い原因はおおむね語り手のリヴェラ刑事にある。手錠を後ろ手ではなく前にかける、ミカを車の助手席に乗せて単独で現場に向かう、ミカに気を取られて自動ブレーキを作動させる、鑑識を呼ぶのが遅れる、といった規則違反を連発する。血の滴る生首を見た後で、全てソフトウェアによる計算だと理解しつつ、現職の警察官がここまでうろたえるのはどうも納得がいかない。ミカ、友人の検事、ロボット製造元の顧問弁護士といった女性陣全員から「弱者を救うことで自尊心を満たす英雄コンプレックス」を見抜かれているのも情けなさに拍車をかける。
  • リヴェラがミカに見覚えがあったのはポルノサイトの広告で見ていたからとのことで、ミカ型の見た目はどれも同じらしいとわかる。ロボットの容姿が人間と似てしまった際のトラブルを考えると画一化は理に適っている。しかし誰にも似ていないことはどうやって把握するのだろう。まず実在しないと思われる顔は作れるとしても魅力を維持するのが難しそう。
  • GPSを追跡して現場にやってきた顧問弁護士はミカの目にドライバーを突っ込んで強制停止させるのだが、これもインパクト重視のナンセンスに思える。ネットワークされているのだったら遠隔操作の仕組みくらいはありそうなものだし、物理的にスイッチを切るしか方法がないとは思えない。スイッチの位置にしてもさすがに目はない。
  • 掲載サイトの挿絵が妙にいかつい。