アクセル・ハッセン・タイアリ “Beyond the Visible Spectrum”

Fantasy Scroll Magazine 2015年6月号に初出。
分量およそ4700語、日本語訳なら文庫25ページくらい。

あらすじ

イエローストーンカルデラの地下で繭に包まれて眠っていた「わたし」は人間の手で掘り起こされ、南極大陸の研究施設に移送される。活動に必要な熱の不足から能力の大半を失っていたが、わずかな力で研究者たちと意思疎通するうちに周辺温度を上げさせることに成功する。回復した知覚を活用し周囲の電子機器を調べた結果、人類が外宇宙とコンタクトするためのゲートをクルベラ洞窟の奥深くで開こうとしていることが判明。宇宙の恐怖を知らない傲慢な人類の企てを阻止すべく、わたしは基地の制圧に乗り出す。

感想

  • クトゥルー的なクリーチャの一人称。外形はおおよそヒューマノイド、7本肢、粘液を分泌している。知覚は鋭敏で、実験者の心拍数を測ったり、胃の内容物を透視したり、癌を発見したりするほか、電子機器のデータも読み取れる。体力の消耗は激しいがワープも可能。
  • 望みとあらばシュメールのウルの崩壊も語れるらしく、収容施設の防爆扉はリトルボーイでは破れないかもしれないがファットマンならいけると見積もるなど、太古から現代まで人類史を軽く包摂するほど古い存在のようだ。
  • そんな超常的なシングだが、冷気に弱いので本来の力を発揮することもままならず、尻尾をぺちぺち振ってどうにか人間とコミュニケーションするしかない、というなんとも情けない状況に陥ってしまう。熱を発生させようと武器庫目指してワープを繰り返す姿は必死なタコのようでもあり、どこかコミカルな愛らしさを醸し出している。
  • 人類の知識に通じていることもあって語りに不明瞭な部分は少なく、タイトルにもなっている人間に知覚可能な領域を超えた感覚の描写にしても凝ったものではなく、怪物視点ならではの引っかかりがもう少し欲しくなる。
  • モンスター目線でコズミック・ホラーをやると化物なりの苦労が滲み出て、大なり小なりコズミック・カワイイになってしまうのかもしれない。