ピーター・ワッツ『6600万年の革命』に関するメモ

原文は Kindle を、翻訳は2021年1月発行の初版を参照した。

最終更新日:2021年1月21日

見ての通り誤訳が多い。もし次があるなら慎重で優秀な訳者に交代してほしいし、編集部にはチェックを徹底してもらいたい。「翻訳者たちは著者よりも優れた書き手である」という賛美が皮肉になるようではいけないのではないか。とても残念だ。

プロローグ

I'd tally up the length of our journey so far;
旅した距離を集計し(p.11)

距離ではなく期間。

Two builds took us to the Golden Age of Islam,
イスラム文明の黄金期に二回の構築があり(p.11)

二回目の構築があり。

Did exactly the opposite in fact, ended up rubbing my nose in the sheer absurd hubris of even trying to contain the Diaspora within the pitiful limits of earthbound history.
ディアスポラを地上の歴史に縛られた憐れな限界の中に押し込めて、得意げになっていただけだ(p.11)

ごく限られた地球の歴史にディアスポラを収めようとすることの愚かしさ、傲慢さを思い知らされる結果に終わった。

almost six thousand years into the mission; I [...] didn't even wake up until the fall of the Minoans.
任務開始から四千年近くになる。(中略)はじめて目覚めたのはミノア文明が没落したころだ(p.11)

ここは原文の数字がミノア文明崩壊の時期と食い違っている。

偶発的な悪魔

something that swallowed Humanity whole and raced along our conquered highways in search of loose ends to devour.
人類を丸呑みし、わたしたちが敷設したハイウェイを辿って、それを末端まで食い尽くそうとした連中(p.13)

食べ残しを探してハイウェイを辿ってきた。

the radiation erupting from a newborn wormhole would turn us to ash
わたしたちを灰に変えてしまう(p.14)

減速したら、という仮定なのだから「変えてしまうだろう」とした方がわかりやすい。

connected there to here without ever slowing down.
遅延ゼロであっちとこっちをつなぐ(p.14)

一切減速せずに。

I have to be the one at her side when she loses it.
わたしは彼女がおかしくなったとき、そばにいることになっていた(p.16)

「(当直は5人だったが)自制を失ったリアンのそばにいるべき人がいるとすれば、それはわたしだった」という感じか。サンデイは生命維持が専門なので医療にも通じているはず。仲の良さも理由だろう。

we build a gate and something tries to kill us
ゲートを構築すると、誰かがわたしたちを殺そうとするから?(p.16)

「あるいは、ゲートを構築すると何かがわたしたちを殺そうとする」。前段で「絶滅したからか、気にかけていないからか、忘れちゃったからか」と畳みかけているのはゲートから何も出てこないときの理由であって、ここを「殺そうとするから?」とすると流れがおかしくなる。

That's just fucking aces
それって最高じゃない(p.17)

「(夢みたいな人生が説得材料だなんて)大した切り札ね」という感じか。

some biomechanical monstrosity
生化学的な怪物たち(p.17)

「生体機械らしき怪物」。ここでのグレムリンは単数形。

tree shrews
木の上にいるトガリネズミ(p.18)

ツパイ。最も原始的な霊長類と見る説があるらしい。

She smiled then, absurdly.
謎めいた笑み(p.19)

やけに大声で笑う。馬鹿笑いする。

Park and Viktor [...] had sat out the boot in favor of a little cubby time.
居残って軽いおしゃべりに興じていた(p.20)

ゲートの起動を見届けず、個室でのひとときを選んだ。

pseudopods
疑似ポッド(p.20)

自在に形を変える椅子をアメーバの仮足になぞらえているのだろう。ポッドに似ているがポッドじゃないものと解釈するとポッドってなんだよという話になってしまう。

a lily pad
百合のしとね(p.20)

ハスの葉。

ブート(p.21)

これは難癖だが、しばしば boot をブートと訳しているのが気になった。コンピュータ関連ならともかく、もっと普通に起動とかでいいだろう。

That tarantula whatsisname snuck on board.
あの何とかいう名前のタランチュラよ(p.22)

「こっそり乗船してるタランチュラだかって名前の生き物」。すぐ後で「船内にタランチュラがいるのか」とパークが訊くのはここでそう言っているから。

Call me in a few billion. Then we'll talk.
数十億年経ってるんならともかく(p.25)

「数十億年経ったら呼んでくれ。話をするのはそれからだ」。ヴィクトルの思惑を考えるとこういう細かいところも落とさない方がいいのでは。

Build your backups out of anything less and you might as well be carving them from butter.
それよりも硬度の小さいものでバックアップを作るのは、バターにデータを刻み込むようなものだった(p.26)

それよりも硬度の小さいものからバックアップを作るのは、バターから削り出すようなものだ。

突然変異(p.26)

日本遺伝学会は突然変異を単に変異と表記するよう提案している。まあ色々と反対意見もあるようだが。

meatsicles
肉袋(p.26、p.103)

「肉味のアイスキャンディー」。さすがにこれでは工夫がないが、かき氷ならぬ肉氷くらいしか思いつかない。肉棒アイスでは別のニュアンスが出てしまう。翻訳はくどいほど meat を肉袋と訳しているが、原文に meat sacks は一度しか出てこない。

diamond statuary larger than life
人生そのものより大きなダイヤモンド(p.27)

「(実際に作るバックアップの)実物よりも大きな」か。

copy-editors
コピー/エディタ(p.27)

校正者。そのままにするにしてもスラッシュよりは中黒かな。

He couldn't even tell us why.
移設の理由も言おうとしなかった(p.28)

理由すら言えなかった。

Matching threadbare covers festooned with Penrose tiles, for sleeping and pseudopods.
ペンローズ・タイルを飾って同じ柄のすり切れた覆いをかけた睡眠ポッドと疑似ポッド(p.30)

寝具や〈仮足〉用の、ペンローズ・タイル柄で揃えてある擦り切れたカバー。

she'd been stuffing that junk into storage since the moment she'd left the party.
彼女はそうしたがらくたを、当直が終わるまで保管庫に入れっぱなしにしていた(p.30)

パーティーを抜け出してからずっと、このガラクタをケースに詰め込んでいたのだろう。

Just had—you know, like you said. A moment.
ちょうど――まあ、わかるわね。ちょっとだけよ(p.30)

「さっきのは――あなたも言ったでしょ。ちょっとうろたえただけ」。

Once you've gone relativistic
相対論が効いてくれば(p.31)

「相対論的速度に達すれば」。どっちでもいいか。

'Spores.
ディアスポラ体験者《スポラン》(p.35)

環境の悪化に対し一部の細菌が形成する「芽胞」の意味合いもありそう。荒れた地球を逃れ冬眠状態で孤独に過ごす乗員には似つかわしい。植物の散布体 diaspore とも考えられる。ディアスポラの原義が播種なのだから胞子的なニュアンスをもっと汲んでもいい。名称に反して乗員は不妊であるという皮肉もある。

That's kind of my point.
ある意味、それが言いたかったの(p.35)

「(乗員は孤独を好む)だからこそ、お礼を言いたかったの」という感じか。

メルトダウン

mass distribution
大量の分布(p.37)

質量分布。

wheeled past the new vacancy
新たに生じた空間を通過して(p.40)

空っぽになった棺を通過して。

We were getting set to turn in
通路に入ろうとしたとき(p.42)

寝る支度に取りかかったとき。

Totem. Right. Rock worshipers.
トーテム。なるほど。ロック崇拝者だもの(p.42)

トーテムならロックは石像とかそういうものなのでは。

"Anything on the diagnostics?" "Nope."
「点検結果は?」「異状なし」(p.42)

「分析結果は何か出てないの」「なんにも」「通路にカメラはない」という流れ。

we've outlived our usefulness
役に立たなくなるまで生きすぎた(p.42)

耐用年数はとっくに過ぎた。役目は終えた。

Humanity's head up the galaxy's ass
人類優先、銀河系はおまけ(p.42)

one's head up one's ass で頭がおかしいという意味だから、「人類史上最悪の銀河級の愚行」とかそんな感じでは。

Not out in the open.
宇宙空間に出ているときに切ることはない(p.46)

開けた場所にいるときは切らない/公然とは切らない。

like I could take one wrong turn and be lost forever
ちょっと曲がり方を間違えただけで自分が永久に失われてしまうような(p.46)

曲がる角をひとつ間違えただけで永久に迷子になってしまうような。

That was the whole point.
それこそが問題だった(p.47)

(リンクの接続が保たれないこと)そこが肝心だった。

The deck slanted here, like a steel beach: a broad basement door at the waterline marked our destination.
デッキがまるで鋼鉄の浜辺のように傾斜している。波打ち際に相当する場所にある地下室のハッチが目的地だ(p.47)

steel beach は潜水艦の甲板で waterline は喫水線か。ちょっとしっくりこないというか想像しづらいが、浜辺は浜辺で平らなイメージなので違和感がある。浜辺と考えた場合どういう部分を波打ち際に見立てているのかもよくわからない。

こそげ取るだけの存在、フリーズドライされた(中略)配管だ(p.49)

文がねじれている。読点の前までは庭師ボットの記述で、その後は排泄物を循環させる配管の話。

a bottled biosphere that would barely sustain a handful at regular rates of metabolism, but keeps thirty thousand of us alive just so long as we only take a breath every decade or so.
普通の代謝なら片手ほどの人数をかろうじて維持できる程度の瓶詰めされたバイオスフィアで、わたしたち三万人を生きたまま運んでいる。息ができるのは十年に一回くらいだが(p.49)

通常の代謝率であれば数人しか支えられない瓶詰めバイオスフィアでも、乗員が10年かそこらに1回しか呼吸しないという条件なら、3万人を生かすことができる。

it brightened to dim twilight as our eyes adjusted to analuciferin constellations glowing on all sides.

訳し漏れ。「四方で瞬くアナルシフェリンの星座に目が慣れるにつれて明るさが増し、夕暮れの光に包まれる」。アナルシフェリンが改良発光素なのかギャグなのかわからない。

We stood on a catwalk, taking deep grateful breaths half a meter above bedrock blanketed in drifts of thin soil.
小径の上に立ったまま大きく感謝の息をつく。薄い土壌が吹きだまった、岩盤から五十センチほどの土の上だ(p.50)

薄い土壌に一面覆われた岩盤の50センチ上方にあるキャットウォークで。

drive circuitry that couldn't possibly be expected to contain such vast energies without emitting some of its own
外部放射のないこれほど膨大なエネルギーを駆動回路が想定していなかった(p.51)

極めて膨大なエネルギーを抱え込んでいるため、自らも多少のエネルギーを放射せざるをえない駆動回路。

Watch ennies.
アニメを見る(p.52)

any か。なんでも見たいものを見る、とか。よくわからない。

Enough with the world-weary ancient immortal shtick, okay?
昔ながらの決まり文句は飽き飽きなの(p.52)

厭世的な不死身の仙人って定番ネタは要らないから。

You were increasing the uncertainty threshold
不確実性の閾値をいじろうとしたのね(p.54)

ここは原文が変。不確実だと判定される閾値を下げなくてはいけないのでは。まあノイズを流して不確定性ポイントを底上げするってことなんだろうけど。

Widen the confidence limits.
確実性の限度を引き下げられれば(p.55)

信頼区間を広げられればそれでいい。

And it passed.
そのうち治ったけど(p.59)

「(ちょっとあってと言えば)それで通用した」だろうか。

That thing could deprecate me...
あれはわたしを凍結できるのよ(p.60)

これは難癖だが、凍結では冬眠との差がぱっとわかりにくいと思う。廃止とか運用停止とか非推奨化とか。ダブルミーニングなので凍結も悪いわけではないのだが。

I saw the strings on me, and on my masters, and on theirs.
わたしにつながる糸があり、それはマスターたちにも、彼らにもつながっていた(p.61)

わたしを操る主人たちにも、そのまた主人たちにも繋がっていた。

as well as all the other kinds
そのほか諸々に(p.61)

「他の仲間たちのように」か。

My own presence was limited to a capsule cruising aft, climbing above the 1G isograv and growing lighter with each corsec.
わたし自身の存在は船尾を巡行するカプセルの中に限定されていた。一Gの等重力の中を登り、あたりは一標準秒ごとに明るくなっていく(p.63)

「わたし自身の存在は船尾方向へと向かうカプセルの中に限定されていた。1Gの等重力線を越えると、1標準秒ごとに体重が軽くなってゆく」。傾斜の地と子宮の位置関係からするとこうだろう。

a coffin down in C3A
C3A通路の先の棺(p.64)

Crypt 3A なので「C3Aの棺」あるいは「霊廟3Aの棺」。

Local humidity could use a tweak.
周囲の湿気のいたずらだ(p.65)

周辺の湿度には調整が必要だ。

Sunset Moments
黄昏時(p.66)

サンデイの名前にも引っかけた憩いのひとときなわけで、括弧でくくるなりルビを振るなりしてもいいと思う。

see the muzzles poking in through that canopy, pointing right at me.
樹冠の上に突き出した梢がすべてわたしを指さすのを眺めている(p.66)

プログラマブル物質の)林冠からいくつも突き出た(ガンマ線レーザーの)銃口が、まっすぐわたしを狙っている。

vaporizes the grazers and the dielectric stacks
削岩機や絶縁体を蒸発させながら(p.66)

斜入射鏡 grazing mirror と誘電体の層を。

other armatures at greater remove bring it to heel.
はるか遠くに離れた別の防護装置もそれに続いた(p.66)

遠く離れた別の装置が特異点を制御下に置いた。

I was getting tired of the holes in his memory.
彼の記憶の欠落に疲れてきていたのだ(p.68)

うんざりしていた。

I leaned back
わたしは姿勢を正し(p.70)

「背をそらし」。手すりにもたれる感じだろう。

The decision tree runs subconsciously.
決定は下意識でなされます(p.71)

「決定木は潜在意識で処理されます」。下意識ってあまり使わないような。

forensic audit
法定監査(p.71)

エリオフォラで法律も何もないだろうし、ここは緻密な検査の意味合いでは。単に監査でもよさそうだけど。

short list
短いリスト(p.71)

候補者リスト。

And Lian had her head so far up her ass she was frenching her own tonsils.
彼女は頭を高く上げすぎてまわりが見えなくなり、舌で自分の扁桃腺をまさぐるように自分自身に没入しているのだ(p.73)

直訳した方が面白い。「リアンは頭を自分の尻に深く突っ込み、扁桃腺にディープキス(フェラチオ)するのに夢中で周りがちっとも見えていない」。

引き波

これは難癖だが、章題の Undertow は水面下の陰謀を指しているのだろうし、本文中の undercurrent 同様に底流と訳した方がいいと思う。

our passage through the hoop jump-starting it onto the ever-growing daisy chain in our wake.
わたしたちが環帯を通過したことで成長しつづけるデイジーチェーンが後方でジャンプスタートした(p.75)

船が環を通過してゲートを起動し、わたしたちの後方に伸び続けるデイジーチェーンに加えた。

but they're both focused on the substrate, torching bedrock down to soft plastic that can be layered across the tiny wound within the larger one.
どちらも基層に集中して照明を下に向けていた。大きな傷の中の小さな傷を覆う、柔らかいプラスティックを調べていたのだ(p.77)

だが、両機は地面に目を向け、岩盤を柔らかいプラスチックのようになるまでトーチで溶かして大きな傷の中の小さな傷を覆う作業に当たっていた。

Not a contradiction, I realized.
これなら反論ではない(p.79)

「(リアンとの仲がどうあれ)別に矛盾しているわけじゃないと気づいた」か。ニュアンスがもうひとつ掴めない。

gearheads
間抜け(p.82)

技術者。

I'd just—developed this model of exponential expectation, I guess.
指数関数的な進化を期待していたのだと思う(p.84)

「指数関数的なモデルを期待していたのだろう」。こういう形で進化という単語を使うのはいただけない。生物学者が書いているのだからなおさら。

past inflection and closing on the asymptote,
屈曲部を過ぎて漸近線を描き(p.84)

「変曲点を過ぎて漸近線に近づいて」。これは難癖か。

わたし程度の賢明さも得られない(p.84)

これは難癖だが smart を賢明さと訳すのは少しぎこちなくないか。他の場所でも目についた。賢さとか知能とか、もっと普通の言葉があるのでは。

it had once been blazing towards transcendence before some soulless mission priority stuck him in amber.
かつては卓越した輝きを放っていたのに、任務の無情な優先度がその輝きを曇らせてしまい(p.85)

かつては超越的な存在に向かって突き進んでいたのに、任務の無情な優先度が彼を琥珀に封じ込めてしまった。

the saccadic interface
〝がたつき〟インターフェース(p.86)

眼球運動にサッカードとでもルビを振る方がわかりやすい。がたつき運動ってあまり言わなそう。

the sound of my disembodied voice
肉体を離れたわたしの声(p.86)

姿の見えないわたしの声。

Sometimes we get into fights, kind of, but they never really go anywhere because, you know. Ten thousand years and all.
ときには喧嘩みたいになることもあるけど、暴力沙汰にはなりようがないからね。一万年くらいやってる(p.87)

「喧嘩することもあるが、本気で怒ることはない。なんせ1万年を隔ててるから」という感じか。

Then again, Chimp packs ten thousand times more numerical crunching power into his most microscopic ganglion than Viktor does in his whole grapefruit-sized brain,
ここでもまた、チンプはそのグレープフルーツ大の脳の顕微鏡レベルの神経結節に、ヴィクトルの一万倍もの計算能力を宿している(p.88)

とはいえ、チンプのごくミクロな神経節に宿る計算力は、ヴィクトルのグレープフルーツ大の脳全体に宿る計算力の1万倍だ。

It wasn't just the numeric value of those parameters that mattered;
それは重要なパラメータの単なる数値ではなかった(p.88)

重要なのは各パラメータの数値だけではなかった(その相関関係も重要だ)。

Broke Chimp's calculations down into bite-sized modules
チンプの計算をバイト単位のモジュールに分解し(p.90)

「チンプの計算を一口サイズのモジュールに分解し」。byte ではない。

How'd that design manifest? I want to see how it turns out.
その設計はどうやって出てきた? ぼくはそれがどうなるかを見たいんだ(p.91)

「その設計がどんな形で表れるか考えてみろ。ぼくは結果を見届けたいのさ」。この書き方ではそれ=設計としか受け取れない。

Not least because it would make your epic quest so much easier than mine.
あなたの叙事詩的クエストが、わたしのよりずっと簡単になるからってだけじゃなくて(p.92)

とりわけ、あなたのクエストがずっと簡単になるってところが(むかつく)。

I might have called him a friend with a few more mutual builds under our belts, but when I caught him in the act he was still just a friendly acquaintance.
ほかの部族と共同のシフトでは友達と呼んだかもしれないが、実際のところは単なる親しい顔見知りだ(p.93)

構築をあと数回共にしていたら友達と呼んでいたかもしれないが、現行犯で取り押さえたときはただの顔見知りでしかなかった。

C major chord at low C.
下のCメジャー(p.97)

下のCとか中のCって言い方はするのだろうか。

If I hadn't already known that,
既に知っていることでない限り(p.97)

(パークの部屋だったことを)仮に知っていなかったとしても(楽譜が目印になったはずだ)。

Make me appreciate you.
それなりのものだといいけど(p.98)

音楽鑑賞クラブなのだから「鑑賞させてもらおうじゃないの」という感じでは。

A cutting torch with adjustable focal length and steadicam mount:
焦点距離を調整できる切断トーチとステディカムのマウント(p.104)

焦点距離が調節できてステディカムもついているトーチ。

Set the focus.
目を凝らした(p.105)

トーチの焦点を設定した。

It would make more sense to decommission the coffins.
棺を廃棄する方が意味があります(p.108)

棺を廃棄したと考えた方が筋が通ります。

utility function
有用性関数(p.110)

普通は効用関数では。実際、他の場面では効用関数と訳されている。

we've had the bad grace to not do that.
わたしたちには止めようがない(p.112)

わたしたちは潔くないので、予定通りに死んだりしない。

I heard reproach in the fucker's voice.
その声には怒りのようなものが感じられた(p.112)

「たしなめるような響きがあった」。怒りではなく教え諭すような感じだろう。

バーナムの森

the stone rolls away
石が転がりだすころには(p.116)

石棺の蓋が開く頃には。

the next bot would leave in its wake like floating pearls.
次のボットは宙に浮かんだ真珠のようなそれを辿っていく(p.117)

ボットは宙に浮かぶ真珠のような中継器を通り道に残しながら進んでいく。

the lumens in the Glade
傾斜の地の明度(p.120)

言いたいことはわかるが明度は普通、色の明暗だろう。光量とでもすべきでは。

The visor boosted black to gray: I could see [...] well enough to watch the thicker ones pull away in a sluggish tangled retreat at my approach.
ヴァイザーが黒から灰に変わり(中略)もっと太いのが絡まっていても、それが後退していくのがよく見えるようになった(p.121)

ヴァイザーが漆黒の闇を灰色に変える。(中略)もっと太くもつれた繊維が、わたしの接近に反応してのろのろと後退していくのがよく見えるようになった。

The place had really gone downhill.
そこは本当に奥の奥だった(p.122)

そこはすっかり荒れてしまっていた。

Most of the forest was unfurnished by design.
森の大部分には、あえて小径を通していなかった(p.123)

「森の大部分には仕様上、これといった設備がない(飾り気がない)」。catwalk を小径と解釈したせいであちこちに違和感が出ている。手すりや階段が出てきた時点で気づいてほしい。

the heart of a globular cluster
光の集まりの中心(p.125)

球状星団の中心。

carnosaur
カルノタウルス(p.125)

カルノサウルス。

Its severed stump thrashed into view,
切断された断片が目に入った(p.126)

目を傷つけられたみたいで紛らわしいので「視界に入った」にした方がいいのでは。

I'd never felt it in my gut.
内臓感覚でわかっていたわけではなかった(pp.126-127)

これは難癖だが、「腹の底で理解していたわけではなかった」くらいでいいのでは。

Deep-focus microwaves.
深焦点超短波(p.128)

マイクロ波

Defeats the purpose otherwise.
配線を破壊して、目的を変更したの(p.128)

(チンプとリンクしていない)そうでもなきゃ目的が台なしだ。

the hypervisor
ハイパーヴァイザー(p.130)

管理者なり監視者にルビとして振った方がわかりやすい。

"I mean, that was a pretty specific overture. That was for me."
"That was for you, someday. When we were sure. You forced our hand."
「要するにあれはごく特殊な提案だった。わたしのための」「いつかはあなたのためにもなる、かな。確信を持てた暁には。あなたがわたしたちに強要したわけだけど」(p.131)

「(ドロンはサンデイとリアンの会話を引用したし、楽譜の暗号もタランチュラ・ボーイの所在だったので)あれは明確にわたし宛てのお誘いだった」「そう、あなた宛てだった。いつの日か確信が持てたら、ってね。あなたに行動を強いられてしまったけれど」という感じか。

Does everyone else get the same ringside seat?
ほかのみんなにもリングサイド席が用意されるの?(p.132)

同じ側のリングサイド席についてるのか。

I've already got enough raging vendetta for a fucking army.
怒りに任せた復讐なら、もうたっぷりやってきた(p.132)

復讐したいって怒ってる人たちなら、もう軍隊を作れるくらいいるの。

Kaden howled and went down.

訳し漏れ。

いずれなるわ(p.136)

人称が se のカデンの台詞はもう少し中性的にしてもいいのでは。どちらでもないのだから、この要求もナンセンスかもしれないが。

Chimp-Sunday dynamic of yours
チンプ=サンデイ力(p.136)

絡み合ったシステム的ニュアンスだろうし、系、系列、系統、一統、連合とかの方がしっくりくる。

I almost didn't notice that se hadn't answered my question.
わたしは質問に答えてもらっていないことに気づきもしなかった(p.137)

質問に答えてもらっていないことに気づきそこねるところだった。

vocal stress harmonics
音声ストレス和声学(p.138)

音声ストレス値、とかでいいのでは。

while we'd been catching up;
わたしたちが追いつこうとしているあいだに(p.139)

「口裏を合わせている間に」「(植物の情報など)知っておくべきことを話し合っている間に」という感じか。

Back on Earth you could have a single organism stretching from sea level to the edge of space and the raw gradient would barely be competitive even if you could figure out some way to make Krebs cycle work across a few hundred kliks.
地球ではたとえ海面から宇宙の境界まで単一の有機体が広がってて、数百キロにわたるクレブス回路の細胞内代謝が働いていたとしても、そこに勾配の競合なんて起こる余地ないでしょ(p.141)

「なんの手も加えていない重力勾配に競合力があるわけない」。細かいか。

buts or what-ifs
〝でも〟や〝たとえ〟(p.141)

「でも」や「もしも」。

But each question I answered might incite others; each follow-up would make it that much harder to keep the flowchart veering toward evolution and away from engineering.
その答えの一つひとつが特定の刺激を狙っている。フローチャートに従うのを困難にして、話の方向を〝遺伝子工学〟から引き離し、〝進化〟のほうに持っていこうとしているのだ(p.141)

だが、質問に答えるたびにまた別の質問を招くことになる。情報を補足すればするほど、フローチャートの行く先を遺伝子工学から逸らして進化に向けるのは難しくなっていく。

cost-benefit
費用対効果(p.141)

これは難癖だが、費用対効果だと微妙にニュアンスが違うような気が。まあ意味は通じるんだからいいんだけれども。

diminishing returns told it to take the rest on faith.
残った部分は信じた方が利得が大きいと判断するまで(p.141)

リターンが逓減して後は鵜呑みにしていいと判断されるまで。

anything more than two standard deviations off the mean.
平均から二σ以上離れた標準偏差(p.142)

平均から2標準偏差以上離れたもの。

Like the Chimp would ever go for that in a billion years.
チンプがやっても十億年はかかるだろう(p.14)

十億年経とうがチンプが推進機関を停止するなんてありえない。

How long to cook?
失敗と決まるまでの時間はどれくらいでしょう?(p.143)

料理にはどれくらいかかるのか(成果が上がるまではどれくらいか)。

We err on the side of caution.
用心深くなりすぎちゃだめよ(p.144)

慎重すぎるくらいに慎重なくらいでいいの。

lithobes
石質生命体(p.144)

石 lith と微生物 microbe から作った造語か。

We can tweak gen time
遺伝子をいじって(p.144)

世代時間を調整して。

ユーザーフレンドリー

He's stupid.
あれは愚かなんだ(p.150)

「あれ」に傍点を振るのくどくないか。ジャハジエルはここでは he を使っている。

That might have just been for my benefit, though.
わたしの願望がそう思わせたのかもしれないが(p.152)

わたしのためだったのかもしれないが。

but both sides brought me up to speed the next time I was on deck.
両陣営が次にわたしが起きる時間を早めるように動いた(pp.153-154)

次にわたしが起きたとき、両陣営が事の次第を教えてくれた。

The other thing, though, is that I wasn't really acting.
ただ、それ以外について、わたしは実質的に何の活動もしなかった(p.154)

一方で、丸っきり演技をしていたわけでもなかった。

callback sequence
帰還順路(p.157)

帰還命令信号。

during a build deep in the bow shock over TriAnd.
構築中に奥まで届く船首衝撃波を受けながら(p.159)

Triangulum-Andromeda に広がるバウ・ショックの深みで行われた構築中。

Which is where the Ghost of Chimp Past comes in.
これで過去のチンプの幽霊の居場所がわかるようになった(p.160)

そこが過去のチンプの幽霊の引っ越し先というわけだ。

The passing of mission-critical intel.
ミッションに必要不可欠な情報の見落とし(p.161)

「(マシンの目がある場所での)情報の受け渡し」とも取れるような。どうだろう。

The official record said he'd died when a bit of bad shielding had failed around the outer core: a blast of lethal radiation, an emergency vent to spare the rest of the level from contamination.
公式記録では、死因は(中略)緊急ヴェントを実施したことだった(p.165)

死因は被曝で、緊急排気は死体が消えた言い訳か。ヴェントでは伝わらないと思う。

Alert for the ice monster.
氷の怪物警報が出たから(p.167)

ここのアラートはTRPGの行為判定か何かのように思えるが、やったことがないのでよくわからない。ダンジョンで警報は鳴らなそう。

The Chimp's somewhere around the ventral mass cache.
チンプが腹部質量キャッシュのどこかにいる(p.167)

「周辺のどこかにいる」。キャッシュも貯蔵庫とか倉庫とかそんな感じか。

You catch a glimpse of it in your torchlight before it disappears
消える前に松明の火でちらっと見えたでしょ(p.167)

もうちょっとTRPGゲームマスターっぽい口調にできないものか。まあやったことないので知らないのだが。「ちらっと見えたと思ったら消えた」という順にしないと言外の意味「もうチンプはそこにいない」と若干意味がずれる。

Gs
重力源(pp.169-170)

G型主系列星

lensing artifacts
レンズ状人工物(p.172)

重力レンズ効果による光の歪み。

We build not one gate but many: powered by the singularity, but not wormholed to it. They reach further than the usual kind, they could never consummate union with the daisies in our chain: their roots may be cheek-to-jowl but their gaping hungry mouths erupt into spacetime thousands of lightyears apart,
わたしたちはゲートを一つだけでなく、たくさん構築している。エネルギー源は特異点だが、そこにワームホールはつながっていない。悪ガキ特異点は通常のものよりも〝手〟が長く、わたしたちのデイジーチェーンとつながることはない。ルーツはほぼ同一なのだろうが、空腹で大きく開いたその口は数千光年離れた時空に出現する(p.173)

(ハブ建造の際は)ゲートをひとつではなく複数構築する。動力源の特異点を供給しはするが、ワームホールを通すことはしない。通常のものよりも遠くに手を伸ばすそれらゲートは、わたしたちのデイジーチェーンと結ばれることはない。根元こそ近接しているかもしれないが、それぞれの飢えた大口が繋がる先は、数千光年の時空を隔てている。

Those are the nodes to which they might connect.
悪ガキ特異点はそれとつながるかもしれないノードだった(pp.173-174)

これらのゲートは他船のゲートと繋がる可能性のあるノードだった。

No exclamations from the Chimp
チンプからの説明はない(p.179)

「チンプから驚きの声は上がらない」。explanation との勘違い。

カレン(p.180)

カリー。

You up to speed on the timestamp hack?
タイムスタンプのハックの速度を上げる用意はいい?(p.181)

タイムスタンプ・ハックについては把握しているか。

You should crank up the jump.
ジャンプの準備はしておいて(p.181)

「タイムジャンプの幅を長くした方がいい」。この後で5分がどうのと言っていて、レーザー172は300秒ジャンプさせられるわけだから。

the lynchpin of the rebellion
叛乱の楔を止めているピン(p.181)

「叛乱の要(リンチピン)」。楔自体が何かを留めるものなわけで。

You know I wouldn't miss this for the world
わたしが決して残念に思ったりしないのはわかってるんでしょ(p.181)

ショーを見逃すつもりはこれっぽっちもない。

biometrics
生物測定(p.182)

生体認証。

Someone had plugged in the grasers
ガンマ線レーザーを設置したらしい(p.184)

レーザーにプラグを繋いだらしい。

the same hack that identified her as Doron Levi spliced some equally fictitious image into the feed from her visual cortex.
チンプの視覚野に架空の映像を仕込んでいるのかもしれない(p.184)

「リアンの視覚野から送られる信号に偽の映像を紛れ込ませているのかもしれない」。リンクは焼いたはずだが、それも含めて偽造しているのだろう。

atomic clocks accurate down to Planck
プランク数レベルで正確な原子時計(p.185)

プランク時間

metallicity
金属性(p.187)

金属量。

delta-vees
速度(p.187)

加速度。

工場のフロアになるものも存在する(p.188)

精錬所や組立ラインをまとめて工場フロアと呼んでいるのであって、一部がそうなると言っているわけではない。

maybe a hundred heavies holding court to a swirling retinue of harvesters.
渦巻く収穫者を随行させた、百もの悪役が法廷に召喚されて(p.188)

渦巻く収穫機に取り囲まれ注目を浴びる大物役者も、100人ほどいるかもしれない。

The Nemesis build took half a million.
ネメシスの構築には五十万ギガ秒かかった(p.188)

「ネメシスでの構築には50万のキャストを要した」。ネメシスは恒星名。猶予は20万年しかない。

Thousands of exagrams in a dust mote?
塵の破片一つの質量が数千エクサグラム?(p.191)

破片っていうか小さなブラックホール1つにそれだけの質量がって話では。

like dust-mites
塵埃のように(p.192)

イエダニのように。

The tenuous hyperdiamond necklace slung between here and there, a gravitic conveyor endlessly scraping the ergosphere and lifting precious aliquots of harvested energy back to our capacitors.
〝こちら〟と〝あちら〟のあいだにかかる薄いスーパーダイヤモンドのネックレス。休むことなく作用圏を削り取り、収穫したエネルギーの一部をコンデンサーに送りつづける重力コンヴェアーだ(p.192)

ネックレス=コンベアだとわかりにくい。作用圏ではなくエルゴ球。収穫した貴重なエネルギーを少しずつ送る。

I'd thought I'd been holding up my end:
わたしは自分の幕を引こうとしていた(p.193)

わたしは自分の役目を全うしようとしていた。

恐竜の日

grazing mirrors
ガンマ線レーザー・ミラー(p.205)

斜入射鏡。

Somehow I'd expected greater subtlety.
もっとショックを受けると思っていたのだが(p.214)

もっと巧妙な方法で処分するのではないかと思っていたのだが。

No shit, really?
何これ、本当なの?(p.214)

(問題が起きているのは)言われなくたってわかる。

rads off the scale
かなりの大きさだった(p.214)

放射線の測定値が振り切れている。

Tactical
戦術タンク(p.217)

タンクはブリッジにある。これは単にインタフェースに展開する情報を指している。

But the confidence limits widened too fast around those lines;
統計上の信頼区間は急速に小さくなる(p.219)

広くなる。

I'm not gratuitous,
わたしは感謝をしません(p.224)

わたしは根拠なく動いたりしません。

Surely I'd have the option of requesting additional data, at least.
当然、最低でも追加データを要請できるオプションつきで(p.229)

当然、最低でも追加のデータを要求できるオプションくらいはあると考えていい。

I'd have been designed with the good of the mission as my overriding priority.
わたしがミッションを最優先するように設計されてるのと同じように(p.229)

「わたしはミッションを最優先するように設計されたはず」。ここではサンデイが自分がAIだったらと想像しているのだからこうなる。

謝辞

Okay, fine: there's a technical reference for you.
よし、いいだろう。確かにこれは参考文献だ(p.233)

「仕方ない。お望みの参考文献を差し上げよう」という感じかと。

Hopefully, by the time you read this, Ray will have got around to recovering my Linux partition.
できればレイはこれを読む前に、わたしのLinuxのパーティションを修復しにきてくれると嬉しい(p.234)

「読者がこの本を読むまでには修復してくれるだろう」では。

Caitlin Sweet—AKA The BUG— [...] her hooves are all over [...]
別名〝熱中屋《ザ・バグ》〟(p.234)

BUGは Beloved Unicorn Girl の略。ユニコーンだから蹄 hooves の跡。『エコープラクシア』も妻に捧げられている。

the last thousand words cross the line into full-fledged novelhood
最後の千語で長篇小説の長さに達している(p.234)

「最後の1000語で完全に長編の域に踏み込んでしまっている」。ノヴェラの上限が40000語。本作は41000語ほど。

著者より

but he really sucked at it.
はっきり言って辟易していた(p.236)

(分子遺伝学のポスドクとして復帰したが)てんで物にならなかった。

ヒッチハイカ

原文は著者サイトで公開されているものを参照した。

Resigns himself to continued existence.
そのままでいつづけることを諦める(p.241)

観念して存在を続けることにする。

I don't suppose they ever...well...talk about me...
二度とないと思ってた……その……ぼくのことを(p.243)

何か、その、ぼくのことを言っていたりは……。

Araneus's grav contours, wrapped around the mad dense heart of the thing.
〈アラネウス〉の重力輪郭が、その物体の狂おしく密集した心臓部に包まれている(p.244)

〈アラネウス〉の等重力線が幾重にも超高密度の心臓部を取り囲んでいる。

That would explain the skewed ablation
そう考えると斜めに割れてるのも納得できるな(p.244)

割れているというよりは削れているでは。

That's before we even shipped out.
大気放出が起きるより前じゃないか(p.245)

「まだ出航もしてないじゃないか」。ただ、126テラ秒は400万年ほどなので原文が変。サイトには MISSION CLOCK 1,138TSEC とあるので1260テラ秒のミスかと思いきや、叛乱時点で6600万年だからどのみち数値がおかしい。

翻訳では182テラ秒としたうえで事故発生のタイミングを問題にしている(なんでこんなところだけ配慮が届いているのか……)。

You think he would've even got us out of bed if he had any answers?

訳し漏れ。「何か答えがあったらベッドから叩き起こそうとはしなかったでしょうに」。

The collated data float before them
それらの前には照合データが浮かんでいる(p.247)

「3人の前には」かな。

He throws a snapshot front and center:
中心部のスナップショットが表示された(p.248)

「(タンクの)最前面中央にスナップショットを表示した」。この時点ではどこから来た画像かわからないとも直後に書いてある。

ground-effect deck plating
対地効果のある天井プレート(p.248)

対地効果のあるデッキ。

not so much dancing now as jostling, elbow to elbow
もうあまり押し合いへし合いしていない(p.248)

もうダンスではなく、肘がふれ合うほどに押し合いへし合いしていた。

a trajectory from a stable decelerating mass to a coasting eccentric one, the speck between doing its best to segue smoothly from one to the other.
安定して減速したかと思うと偏心的に滑空し、小さな染みが全力を尽くして、さまざまな動きを滑らかにこなしていく(p.251)

「安定して減速中の質量体(エリオフォラ)から慣性飛行している奇妙な質量体(アラネウス)へと至る軌道」。eccentric に偏心の意味合いがあるのかはよくわからない。重心がずれていることか。

Heinwald goes through the motions, finds a power coupling, runs a line, reports back: "Nothing." Solway grunts.
ハインヴァルトは淡々と前進し、電気供給口を見つけ、ケーブルをつないで結果を報告した。ソルウェイは「何もない」とうめき(p.251)

形だけでも確認しておこうと。「(電気は)だめだ」と報告しているのはヴィクトル。

a safe bet, based on advance intelligence.
高度な知性ならではの安全策だ(p.252)

(荒れた地形があるのは)先遣部隊の情報から判断するに、まず間違いない。

cringes inwardly
内側にへこむのだ(p.256)

(酸素を補給するたびに)内心びくびくしていた。

I'm guessing that first thing
わたしも最初にそれを考えたわ(p.257)

(外から溶接されているのを考えれば)前者(何かを中に閉じ込めた)でしょうね。

the device is pretty good at compensating for ambient vibrations, but there's no point in making it work any harder than it has to.
この装置は周囲に振動が伝わらないよう補正する機能を有しているが、必要以上に強力にしても意味がない(p.257)

装置は周囲の振動を巧みに差し引くが、必要以上に働かせる意味もない(ので離れて静かに見守る)。

Positive pressure
与圧ポジティヴ(p.257)

陽圧。

that curiosity has given way to apprehension
好奇心が理解に道を譲り(p.259)

好奇心が不安に道を譲り。

mausoleum
霊廟(p.260)

冬眠用の霊廟 crypt とは別なのだから訳し分けるべきか。

こんな植物、ぼくは船内で見たことないな(p.260)

これはヴィクトルではなく木を見上げているヴルーマンの台詞では。

things built out of trees, things grafted against trunks or secured in the forks of branches
木々から生じたもの、幹に接ぎ木されたもの、絡み合った枝に囚われたもの(p.262)

木で作られたもの、幹に結びつけられたり枝の分かれ目に固定されたりしているもの。

thatched roofs older than species
生物種よりも古い屋根(p.262)

わらぶき屋根。

a displacement drive
エンジン(p.263)

ここに限らないが、質量中心変位航法の意味合いがある displace を落とさなくてもいいのにと思う。

the whole obscene spectral mass
ぬめぬめした塊(p.268)

幽霊じみた不気味な全身像。

余談

  • 2020年9月のインタビューによれば「ヒッチハイカー」はほぼ書き上がったとある。頼めば先行掲載させてくれたのでは(ロシア語版が初出の短編がひとつある)。
  • wikipedia には「ヒッチハイカー」が時系列で最も未来だと書かれているが、ヴィクトルの解凍時の反応からすると「巨星」より前ではないだろうか。