瀬名秀明「144C」に関するメモ

2016年7月『小説BOC 2』に初出。

まずタイトルについて。初出掲載誌『小説BOC』は中央公論新社の創立130周年記念事業の一環で、名前は130に社名のイニシャルCを加えると book の古語 BOC に見えることに由来する。「144C」が参加したのは2016年から14年後の2030年をテーマとする企画だったので、このタイトルになったと考えられる。また星新一賞は選考段階では著者名の代わりにアルファベットと数字を使っているが、それをひっくり返した形とも取れる。それからこれはさすがに単なる偶然だろうが、作中で言及されている有嶺雷太「コンピュータが小説を書く日」では人工知能がフィボナッチ数やハーシャッド数を作品と称しており、そこには144が含まれている。

内容の一部は『この青い空で君をつつもう』執筆の内情を開陳しているかのようにも読める。当然フィクションだろうが真に受けてみると、「地方都市を舞台にした青春恋愛漫画」は高野苺『orange』、企画が頓挫している「とても長い小説」は未刊の長編『生まれかけの贈りもの』のことかと思われる。

「この作品は当初、日経「星新一賞」の応募規定の上限文字数より一字多い一〇〇〇一字で書かれた」との作者註(『2030年の旅』にのみ付記されている)について。当初とあるのは依頼枚数を勘違いしていたために少し加筆することになったから(とフェイスブックに書いていたのを見た覚えがある)。一字多くした理由はこちらを読めばよくわかる。作中の言葉を借りれば「人間だから」か。