ピーター・ワッツ『巨星』に関するメモ

原文は著者サイト他で公開されているものと『神は全てをお見通しである』に収録されたものを、翻訳は2019年3月発行の初版を参照した。

天使

  • 感想記事
  • 搭載されるのは良心 conscience であって意識 consciousness ではない。
  • 焦点は意識よりも決定論と自由意志にあるように見える。散々強調されるようにアズラエルは結末に至るまでルールに従っているだけで、最後に得るのもしたいことを邪魔されないという意味での自由だが、人間側の予測を逸脱する姿に読者は意志を錯覚する。
  • 石亀訳の方が断然格好いいし完成度も高い。あちらに手を入れて収録してほしかった。
  • ペルシャ語箇所を変更したとあるが、読めないので関係なかった(日本語版の該当箇所をグーグル翻訳にかけてみた。「このソフトウェアの機能はなんだ」「通信設備は万全だ」とそれぞれ言っているらしい)。

メモ

A new flight plan, perceived in an instant,
新たな飛行計画が瞬時に知覚され(p.13)
新しい飛行プランが一瞬にして解析され(石亀訳、SFマガジン2011年8月号)

色覚 perception of colour をどう感じるかは知らないと書いたそばから perceive を使っていいものか気になるが、入力を受けた程度のニュアンスか。

Buried high in the glare of the noonday sun, Azrael ...
真昼の陽光のぎらつきがそれを隠している(p.13)
昼間のぎらつく太陽に潜み、アズラエルは(石亀訳)

隠れているのは標的ではなくアズラエル

and holds its fire, distracted.
とまどって攻撃を控えた(p.14)
割り込みが入り、発砲を中断する(石亀訳)

上の「解析」同様、石亀訳の工夫が光るところ。「気が散って」だと人間っぽいし、散らされる注意があるのかという話になる(石亀訳にも同じ単語を「気を取られ」と訳している箇所はあるが、ためらいや好悪が芽生えた後なのでレトリック的にありと判断したのだと思う)。

New variables demand constancy.
新たな変数がいくつか、定常化を要求している(p.14)
新たな変数群が、この解に従うよう求めている。(石亀訳)

解釈に迷った。不変性と解釈するなら中立を破壊するな(変数を変動させるな)という意味になるだろうし、忠誠と解釈するなら命令に従うよう求めていることになる。この時点のアズラエルは作戦を中止してはいない。

the here-and-now
〝今、ここ〟(p.15)
急を要する即決事項群(石亀訳)

石亀訳はこういうところの処理が格好いい。

Báijīng ACV
北京製ホヴァークラフト(p.18)

白鯨。石亀訳も同様の訳だが、北京は Běijīng。

inertial navigation
内部航法システム(p.18)
慣性誘導データ(石亀訳)

石亀訳の通り慣性航法のデータだろう。

seven biothermals are arranged horizontally within.
その中に七つの生体熱源が垂直に配置されていた(p.18)
構造物内部には七つの生体熱反応が水平になって並んでいる(石亀訳)

縦になってしまっている。

And so the chain of command reasserts itself.
攻撃中止命令がふたたび自己主張したが(p.20)
あのコードがふたたび作戦中止を訴える(石亀訳)

直前の chain of command は命令系統で、こちらはアズラエルのコードと解釈するのは変ではないか。拒否権を得ようが命令系統には逆らえないということかと。

a moment of revelation
覚醒の瞬間(p.22)
啓示を受けた瞬間(石亀訳)

啓示でいいのでは。冒頭の「目覚めていない」との兼ね合いもある。

a metric of success
成功への最短距離(p.22)
成功判定(石亀訳)

成功の基準。

gottawunderwhatsthepoyntaiymeenweekeepoavurryding...
ヨウテンヲミキマメナクテハツマリコノママユウセンメイレイヲ(p.23)
カンドコロヲタタキコンダカラナ。ツマリ、オーバーライドシツヅケテ(石亀訳)

原文はたぶん gotta wonder what's the point I meen we keep overriding で、「意味あんのかね、いつも優先命令して」と言っているのだと思う。

some intermittent issue impossible to pinpoint barring another episode.
原因を追究しようとすると別の不具合を誘発するものだったのかもしれない(p.24)
厳密には症状を再現できないたぐいの間欠的トラブル(石亀訳)

再発しない限り特定できない。

even to the malaa'ikah.
彼ら天使たちにさえ(p.24)

この時点で人称代名詞を使うのはいただけない。

There is no discretionary window
任意に選べる〝窓〟は存在せず(p.24)
裁量の入り込む機会はなく(石亀訳)

窓って何、となる。

geosynchronous orbit
静止軌道(p.25)
対地同期軌道(石亀訳)

静止軌道は赤道上の対地同期軌道。

洞窟(p.25)

偽の信号の発信源が洞窟なのは、伝説において預言者は洞窟で神の声を聞くからだろう。

They are all Azrael can hear
アズラエルにはその音だけが聴こえる(石亀訳)

この記述が抜けている。

dynamic wheat/chaff algorithms
動的風選アルゴリズム(p.26)
動的重要度選別アルゴリズム(石亀訳)

渋みを取るかわかりやすさを取るか。

Neutral voices
自然の呼び声(p.26)
〈中立〉の出す音(石亀訳)

natural との見間違えか。

The sun has been down for hours
陽は何時間か前に沈んでいた(p.27)
太陽は数時間前から傾きつつある(石亀訳)

沈んで数時間で光が眩しいのはさすがに変か。沈んでいるなら set を使う気もする。

It died without firing a shot
一発も発砲していなかった(p.27)
一発も撃たずに死んだ(石亀訳)

「死んだ」を抜かさなくても。

experimental conscience
実験的に意識を搭載した(p.27)
実験的良心(石亀訳)

古い「意識」の意味で使われていると考える理由はなさそう。他の作品を読んでみても conscience は一貫して良心の意味で使われている。

it cannot tell one from another.
何が何だかわからなくなった(p.29)
それぞれを切り分けることはできない(石亀訳)

やはりニュアンスは石亀訳の方が正確だと思う。

it never even knew it was deriving on these many missions.
これまでの多くの任務に存在していたことさえ知らなかった(p.30)
数多くの任務を重ねるうちに気づいていた(石亀訳)

数々の任務から導出していたことを知りもしなかった(境界線)。

its sprawling silhouette rises from the desert like an insult, an infestation of crimson staccatos.
砂漠を侮辱するかのように伸び広がる基地のシルエットは、まるで地表を荒らす真紅のスタッカートだ(p.30)
深紅に明滅するその光点群は野放図に蔓延り、傷口のように荒野を蝕んでいる(石亀訳)

やはり insult は傷の類だと思う。スタッカートはわかりにくいが、明滅する光点をこの単語で表現する例が他の作品にもいくつか見られる。

Mission objectives must be met quickly, precisely, completely.
任務の対象とすばやく、正確に、完璧に邂逅しなくてはならない(p.30)
作戦目標は迅速に、精確に、完璧に達成されねばならない(石亀訳)

序盤に出てくる mission objectives はちゃんと作戦目標と訳されている。

Azrael fears it might not be enough.
それでも足りないかもしれない(p.31)
それでも足りないかもしれない、とアズラエルは恐れを抱く(石亀訳)

この「恐れ」をわざわざ落とさなくても。

The JDAM micronuke in her womb clicks impatiently.
精密誘導装置つきの小型核爆弾が子宮の中でうずうずしている(p.31)
子宮に宿したJDAM超小型戦術核が待ちかねたように、カチリと音を立てる(石亀訳)

JDAM が Jesus を連想させる仕掛け、だと思う。また現実に座標の伝達ミスで味方に誤爆した事例があることが関係しているかも。

遊星からの物体Xの回想

  • マクレディの部屋の明かりや上着の切れ端、フュークスの死、酒の回し飲みなどには言及されていない。
  • 孤独を初めて味わった物体が地球生命の孤独に寄せる憐れみに、最も著者の色が表れているように思う。
  • 原作が有名でキャッチーだし、短編集が出るとすればこれが表題作になりそう、と思っていたが予想は外れた。

メモ

I was being Palmer, then; unsuspected, I went along for the ride.
わたしはパーマーになり、疑われることなく移動した(p.39)

「(墜落地点への)遠征に同行した」だろう。他に参加したのはマクレディとノリス。本作の解釈ではこの時点でノリスも同化されている。

the eyes, the ears of my dead skin had fed into this thing before Copper pulled it free.
わたしの皮膚の目と耳は、コッパーが器官を引っ張り出す前にその肉体を調べていた(p.45)

直後に神経の話があるので「焼死体の目や耳はその器官(脳)に情報を送っていた」だろうか。

I remember seeing myself stagger through the snow, raw instinct, wearing Bennings. Gnarled undifferentiated clumps clung to his hands like crude parasites, more outside than in; [...] I remember Bennings, awash in flames, howling like an animal beneath the sky.
ベニングスをまとって、本能のままに雪の中をよろめき進んだことも覚えている。ねじ曲がった未分化の塊が寄生生物のように、両手から体内に食い込んできた(p.46)

ベニングスは同化後すぐに焼かれたので記憶を共有するチャンスはなかった。ここでは他の人間の目を通して同化されたベニングスを見ている。「塊が両手にくっついていた。体内ではなく体外に宿る寄生生物のように」。中略の後の文が訳し漏れ。

this monstrous anatomy had only slowed communion, not stopped it.
怪物じみた解剖も、交霊を遅らせただけで、停止させたわけではない(p.47)

解剖ではなく身体構造か。

It does not work nearly as well as the world thinks; but the fact that it works at all violates the most basic rules of biology.
それは世界が思っているほどにはうまく反応しないが、そもそも反応すること自体、生物学のもっとも基本的なルールに反している(p.49)

むしろ誰の血を熱しても反応するからテストは機能しないと「わたし」は考えた。

I went through a third of the camp's food stores in three days, and—still trapped by my own preconceptions—marveled at the starvation diet that kept these offshoots chained to a single skin.
キャンプの備蓄食料の三分の一を三日で消費して――まだ予断にとらわれていたので――一つの皮膚につながれた派生体の飢え方に驚嘆した(p.51)

人間は異常な実験の最中と「わたし」は思っているので、食糧が少ないのは各派生体を孤立させつつ維持する巧みな断食だと勘違いした。

No match, though, for the dynamite in his hand.
だが、その手にあるダイナマイトは脅威だ(p.55)

時制が気になる。この場面で「わたし」は最終決戦に敗れた物体と記憶を共有しているので、「ダイナマイトには敵わなかった」だろう。

わかっているとも、くそったれ、魂泥棒の強姦魔。意味はわからなかったが、その思考には暴力的なものが感じられた。肉体への強制的な侵入のニュアンスも。だが、その下には何かまったく理解できないものが存在した(p.56)

結末の「だからわたしが、無理にでも救済するのだ(I will have to rape it into them.)」に繋がるやりとり。もしかすると性交の概念もないのかもしれない。生物を「世界」と呼ぶのと並んで印象的な言葉遣い。

when MacReady's small experiment ripped the façade from the greater one
マクレディのちょっとした実験が大いなる真実の表層を震わせたとき(p.58)

the greater one は「わたし」が勘違いしている実験のこと。

When Palmer's blood screamed and leapt away from MacReady's needle, there was nothing I could do but blend in.
マクレディの熱せられた金属線から跳んで逃げたパーマーの血液は、人間たちの中に紛れ込むしかない(p.59)

「わたし」は人間たちに紛れ込むしかなかった。

神の目

メモ

Half an hour before the plane boards. [...] they haven't started processing us yet.
搭乗手続きが始まって三十分になる。(中略)手続きは進んでいない(pp.67-68)

搭乗まで30分で、手続きは始まっていない。すぐ後に保安検査が始まると書かれているし、たった15分で前から10番目についているとの記述もある。

A canned female voice
中にいる女性の声(p.68)

録音された音声か。

the woody aroma of a fine old scotch curling through my sinuses would really hit the spot.
熟成された高級スコッチの樽のアロマが脳内に漂い、当該部位を直撃する(pp.71-72)

hit the spot は主に飲食物が好みや欲求に的中したときの表現とのこと。「酒の香りで鼻の奥まで満たせたら大満足だ」という感じか。

Mustn't compromise free choice
自由な選択に膝を屈するな(p.71)

「自由な選択を損なってはいけない」。悪を為しえないのは善ではない、ということか。

these long-range hits don't instil so much as evoke.
距離を隔てて感覚を刺激する広告の場合、感覚を浸透させたり励起させたりすることはできない(p.72)

距離がある場合は浸透というよりむしろ惹起に近い。

Others quailed at the spectre of machines instilling not just sights and sounds but desires, opinions, religious beliefs.
その一方、影響範囲を視覚と聴覚だけでなく、欲望や意見や信仰にまで拡大すべきと主張する者もいた(p.73)

「映像や音だけでなく欲望や意見、信仰まで注ぎ込む機械に怯える人もいた」。でもそれを言ったら普通の宣伝や演説も、という流れ。

some Mindscape™ flak argued last month on MacroNet. I'm trying to change your neural wiring using the sounds you're hearing. You want to ban SWank just because it uses sounds you can't?
先月あるマインドスケープTM批判者がマクロネットで主張していた。〝あなたが今聞いている音を使って、あなたの神経配線を変えようとしているのだ。スワンクを禁止しろというのは、それが自分には使えない音を使っているからなのか?〟(p.73)

この flack は広報担当者のことだろう。「自分に使えない音」なのか「自分に聞こえない音」なのかは微妙なところか。

The slope is just too slippery.
斜面はあまりにも滑りやすい(p.73)

すべり坂論法。ひとつ例外を認めたらあれにもこれにも適用されていくだろう、と訴えるタイプの誤謬。

eyephones
イヤフォン(p.74)

アイフォン。ヘッドマウントディスプレイ。

In the meantime, hospitals and airports and theme parks keep the dream alive until the price comes down.
そのあいだにも病院や空港やテーマパークでは夢が現実化し、価格も下がっていった(p.74)

「ひとまず価格が下がるまでは病院や空港やテーマパークも夢を抱いていられる」か。家で高精細の体験ができるようになったら用なしになるから、だろうか。

That's the rub, of course.
もちろん、そこが欠点だ(p.74)

不可逆的な変化をもたらさないから企業にとって好都合(人々も一時的な変化ならと受け容れている)と続くので、欠点と言い切っているわけではない気がする。そこが問題だ、難しいところだ、くらいの意味合いか。

with a broken conscience
瑕瑾のある意識(p.75)

良心。直前では conscience を良心と訳している。

about a house in the suburbs
郊外の話(p.76)

郊外のマイホーム。ローンによるつけ払いだから。

If something did happen to their kids it would serve them right.
彼らの子供たちに実際に何かが起きたとしても、ちゃんとやってくれるだろう(p.76)

自業自得だ。

if this cup could have passed from me,
この盃がわたしから取り去られていたら(p.77)

マタイによる福音書26章39節から。

"Well," Security says softly. "Will you look at that."
「じゃあ、これを見て」警備員が穏やかに言う(p.78)

こいつは驚いた。

I am changed by something not yet cheap enough for the home market:
まだ高価すぎて家庭用には出まわっていない装置に切り替わったのだ(p.78)

装置によってわたしは変えられる。

a dull longing so chronic I feel it now only in absentia.
鈍い願望は過去のものとなって、今の自分には関係ないものに感じられる(p.78)

「不在という形でしか感じられないほど慢性的な鈍い願望」という感じか。

You always were big on the power of forgiveness, Father.
神父さんはいつだってとても寛大だった(p.80)

赦しの力を大切にしていた。

dogma and moving parts
教義と動機づけ(p.80)

moving parts の意味合いがよくわからない。可動部品=教義を実践する信徒たちってことだろうか。

I wonder which of us is more guilty.
どちらの罪がより大きいのかもわからない(p.81)

us は「わたし」と神父か。神父は自殺という大罪でけじめをつけ、「わたし」は自殺に等しい人格改変を拒み、小児性愛傾向を治療せずにいる。

乱雲

  • 元恋人の「あの雷雲、まるで生きてるみたい」という発言が着想元。当時はファンタジーのつもりで執筆し、「生体電気細菌」云々の記述も一種のハッタリだったが、発表してから微生物に由来する気象の研究成果が上がってきて鼻高々だったとか。

メモ

We were just another pair of mammals, trying to maximize our fitness before the other shoe dropped.
わたしたちは単なる一対の哺乳動物で、片方の靴が脱げかけているとき、もう片方で精いっぱいなんとかすることしかできなかった(p.97)

「避けられない破滅を前に適応度を最大化しようとしていた」。靴云々は由来が面白いイディオム。

肉の言葉

  • 鼠や鳥を苦痛なく処分する場面は『エコープラクシア』冒頭の蛇の処理を思わせる。
  • 主人公の造形にはシリ同様に自伝的含みがありそう。戦闘コンピュータモード。
  • 新皮質と脳幹のせめぎ合いはたびたび作品に現れる。
  • 著者は2018年に行った質問企画で「生存本能はバイアスなき知覚と両立せず、自らの生死に頓着しない者だけが真実を垣間見ることができる」というアイデアを(夜中トイレに座っているときに思いついたから寝言かもと言いつつ)語っている。この考えが反映されてかどうかは知らないが、確かに作中のトランス/ポストヒューマンは目的のために自己保存さえ投げ捨てているように見える。

メモ

"If you've got to keep it to vidbits, I guess that's as good as any."
ヴィドビット程度に保てるなら、何の問題もない(p.114)

わからなかった箇所。tidbit という単語はあるから video tidbits の略か。それでもよくわからない。

one one thousand, two one thousand, three—
千ミリ秒、二千ミリ秒、三千――(p.115)

秒数を正確に数えるときは one-thousand を挟むとちょうどいいのだとか。

"You haven't published anything on your work at VanGen,"
あなたはずっと〈ヴァンジーン〉に論文を発表していません(p.116)

ヴァンクーヴァー総合病院での仕事を発表していません。

"Right on time. Now it's in the ret."
「時間ぴったりですね。回帰します」(p.121)

ret が何かわからない。

Tens of thousands of dollars worth at least.
少なくとも数十億ドル分は(p.125)

数万ドル。

"I keep forgetting what you do for a living,"
「生かしつづけるためにしてきたことを、いつも忘れようとしてきたんだ」(p.126)

「きみが何を仕事にしているか、ついつい忘れてしまう」か。

帰郷

  • 〈リフターズ〉のパラレル外伝。本編で爬虫類と化すのはキャラコではなく、操業自動化も実現していない。
  • 扉裏解説にはポストヒューマンとあるが、そこまで変化はしていないと思う。
  • これを入れるならデビュー短編を併録した方がいい気もする。
  • シリーズにおいて深海基地の名前はウィリアム・ビービやオーギュスト・ピカールジャック=イヴ・クストーなど深海に縁のある人から取られている。リンケ(Linke)の由来はわからなかった。

メモ

Sodium floods.
ナトリウムが放出されたのだ(p.139)

floodlights の省略。

炎のブランド

  • 黙示録に登場する松明のように燃えるニガヨモギの星は植物や汚染のイメージに合うしこれが由来かと思ったが、該当節を firebrand にしている英訳はないみたい。
  • タイトルはそのままファイアブランドでいいのでは(訂正。brand には汚名を着せる意味があり、包装の話にも通じる)。
  • gut feeling を巡る話であり、文字通り腸が爆心地になる話でもある。
  • 温暖化のメタファーという見方は安直か。でもそういうことだと思う。

メモ

and its devastating effects were showing up in the most graphic PSAs the Bureau could muster.
その圧倒的な影響力はもっとも優秀なFBI捜査官にまで及んでいた(p.155)

「壊滅的な影響は生々しい公共広告にも表れつつあった」ではないか。

they even had their own acronym on the SR1 (defdet—although despite repeated memos from the Deputy Minister, Great Bowls of Fire continued to serve as an informal synonym even though it didn't fit into the character field).
専用の略語も作られ、略語辞典にも記載されたほどだ(defdetというのだが――副長官が繰り返し注意したにもかかわらず、〝大腸火災〟という非公式用語が職員のあいだで流行した)(p.156)

defdet がなんの略かわからない(defecation detonation 排便爆発か)。Great Bowls of Fire は黙示録の鉢のことか。bowels との駄洒落には今回気づいた。非公式用語が記入欄に収まらないくらい長く、上からのお達しもあるということは SR1 は報告書か何かのような気もするが、検索性が低くてよくわからなかった。

ゲイルのに音声メールした(p.157)

衍字。

The purple star (Dept of Energy & Infrastructure) appeared perhaps thirty seconds after that, along with a sudden awareness of ambient change: the usual background burble suddenly extinguished, some dense moist mass oozing invisibly into the building, and settling down, and making Dora's ears pop.

一段落丸ごと訳し漏れ。

a lemon dumbweave blouse
レモン色のざっくりとした手編みのブラウス(p.160)

熱を感知して変色するジャケットやスマート塗料が登場するのを踏まえると dumbweave は無機能繊維を意味しているような気もする。

Bacteroides thetasomethingorother
なんとかかんとかバクテリア(p.160)

Bacteroides thetaiotaomicron はヒトの腸内に常在する細菌の中でも最大級の勢力を持つとか。

Temping as a fire inspector out in Langley.
FBIで臨時雇いの火災調査員をやってる(p.165)

ラングレーはカナダのブリティッシュコロンビア州の街か。

"They've been setting themselves on fire for a thousand years and more." [...] The crawl said Tehran but these days it could've been anywhere east of the Med.
「あそこではもう千年以上も火を燃やしつづけてる」(中略)テロップには〝テヘラン〟とあるが、中東の街ならどこであっても不思議はない(p.166)

灼熱の砂漠でずっと暮らしていることなのか、はたまた自爆のことなのか。Med はたぶん Mediterranean の略だろう。地中海以東。

It's all just information, but you get—emotional—about the kind that happens to be wrapped up in genes.
結局はただの情報でも、たまたまどんな遺伝子で包装されてるかによって――感情的な――違いが出てくる(p.168)

種類は関係なく遺伝子で包装されているだけで感情的になる、ということかと。

She raised cupped hands against the breeze, lit up, dragged. Wisps of gray smoke trailed back out of her mouth as Dora stared in disbelief. "It adapts." She left her card behind. And the memory of that cigarette, flaring to life by the light of the clear blue flame that danced from the tip of her tongue.
片手を丸めて風をよけ、火をつけて、一服する。彼女の口から一筋の灰色の煙が流れ出すのを、ドーラは信じられない思いで見守った。「適応するのよ」ゲイルは名刺を置いていった。舌の先で踊る透明な青い炎で命の火を灯された煙草の記憶とともに(p.169)

from の解釈に迷った。ゲイルは火を噴いたのだろうか。炎の色も気になる。

両手で風を遮っているのでライターは使っていない。ドーラが「信じられない思い」になったのはゲイルが火を操ったからか。

付随的被害

  • カナダ軍空挺連隊の事件はこれ。抗マラリア薬の副作用についても記述がある。
  • 「消化器は残っているのか」という発言は、まだ gut feeling はあるのかと問いかけているようにも取れる。
  • モナハンはラフでざっくばらんな口調のイメージだった。

メモ

every moment relentlessly awake, every moment its own tortured post-mortem.
ずっと起こされたまま、延々と検討会が続いたのだ(p.175)

実際に検討会をしたというか、ベッカーが自責の念に駆られてくよくよと考えているのではないかと思う。

inhibitor
抑制遺伝子(p.175)

遺伝子ではなく神経活動の抑制剤ではないか。

Learning just what the enemy had been doing, besides sneaking up on a military cyborg in the middle of the fucking night.
敵が何をしているのか調べながら、軍用サイボーグに宿ってくそったれな夜の中を進んでいく(p.177)

敵が軍用サイボーグに忍び寄る以外の何をしていたのかを調べている。

The JAG lawyer—Eisbach, that was it—shook her head.
軍法務総監――エイスバックという男――は首を横に振った(p.177)

女性。名前はドイツ語読みならアイスバッハだが。

a Kuan-Zhan
クァンツァン(p.179)

中国語っぽいけれど地名ではないのか。わからない。

Control the narrative.
言葉を駆使し(p.181)

後段で「物語のコントロール」が重要になってくるから、ここも「物語をコントロールしろ」と訳したほうがいいと思う。

"Couples at over seventy percent under most—"
「たいていの状況下で、七十パーセントを超える――」(p.185)

かなりわかりにくいが Couples は electromechanical coupling の略で、圧電効果の効率を表しているようだ。羅列されるスペックは Crysis: Legion からの再利用。

kruggets and a Rising Tide
ナゲットとライジング・タイド(p.185)

kruggets は『エコープラクシア』ではズッキーニ courgette と解釈されていた。結局ナゲットのことだったのか。少し後でオキアミが出てくるので krill nuggets の略かもしれない。ライジング・タイドは飲み物か。

Shit. Walked right into that one.
くそ。まずかったみたいです(p.186)

「よし。まんまと引っかかった」。同情を引き出せた。

false color
あるはずのない色(p.187)
おかしな色(p.218

フォルス・カラー。本作は熱紋によって描かれる七色の視界の描写が印象的だと思う。偽色(擬色)はカラー画像に生じるモアレを指す用語でもあるとのことでややこしい。

Just point and shoot. I am a camera, she thought.
ただ狙いをつけ、撃つだけがいい。わたしはカメラだ、と彼女は思った(p.192)

たぶんジョシュア・グリーンの著作を参照している。

"Not much initiative." Tauchi nodded approvingly. "Great on the follow-through, though."
「主導権があるとは言えないからな」タウチはうなずいた。「だが、後始末は任せてしまえる」(p.192)

「自ら率先して決断するのは気が進まないが、やることはきっちりやりきる」という感じだろうか。

Vigilant immobility
警戒機能の不作動(p.192)

緊張で動けなくなったり、ではないだろうか。

"Whaddya think we're doing now?"
「今すぐなんてどうだ?」(p.193)

「今やってる作業はなんだとお思いで」か。

BUD
バドワイザー(p.194)

Brain-Up Display の略。

Slooped sound
スループ音声(p.197)

スループが何かわからない。スロープの打ち間違いかもしれないが、スロープにしてもよくわからない。

"Huh. Pretty much what we heard."
「へえ。その話は初耳です」(p.202)

だいたい聞いていた通りだな、か。

and a baby alone in a nursery:
それに赤ん坊が一人、保育園にいる(p.203)

保育園じゃなくて子ども部屋では。夫婦と子どもの想定だと思う。

envirogees
環境再現者たち(p.207)

環境難民 enviromental refugees だろうか。

"So it guesses," said the Man from VAG.
「つまり、考えている」とJAGの弁護士(p.208)

退役軍人会(VAG)の男。JAGの顧問は女性。

—may not like cyborgs—
サイボーグとは違うと言っても(p.210)

(国民に)サイボーグは歓迎されないかもしれないが、中国の技術発展を止められない以上、まだしも邪悪さの少ない選択肢だ、という流れか。主語が省略されているからはっきりしない。

some smiley little spin doctor
にやにや笑いの小さな解説屋(p.210)

スピンドクターはPRにおける情報操作専門家。モナハンのことだろう。

I don't fuck my interviews, Corporal.
インタビューを台なしにする気はないんだ、伍長(p.213)

対談相手とは寝ないことにしているの。

Classic act of senseless violence.
無意味な暴力の動機としては古典的ね(p.215)

「妹を銃撃事件で失ったからって銃撃するのは意味不明」という話をしていたのだから古典的な動機だと見なすのは変では。ハリスは典型的な無差別暴力で妹を失ったと言っているのだと思う。

ホットショット

  • 感想記事
  • 本文では自由意思表記だが、自由意志の方が一般的か。
  • マモルは原文だと Mamoro だが変更したのだろうか。
  • 「枡の下に隠した灯火」は聖書の一節。潜在的外敵のダイソン球をこう表現するところはお馴染みの皮肉か。
  • 扉裏解説の「一隻あたり出発時約六千人」がどこから来た情報なのかわからない。建造船の総数は明らかになっていなかったような。
  • 作中でリンチされているコーク一族は温暖化否定論者らしい。

メモ

the same fate
同じ運命(p.224)

最後の文の運命は destiny の方。訳し分けてもいいような気がする。

and they'll be shipping out at my side. Not shipping in, though.
彼らはみんないっしょに太陽系の外へ出航する。ただし、心の内へではない(p.224-225)

ここは解釈に迷った。つまり仲間とは系外へ向かうが、今回内側の太陽に向かう旅は一人旅だと言っているのだろう。

—the whole point?
全体的に?(p.229)

(自殺を遂げられるかもしれない死の危険が)肝心なのか。

The Sun'll die long before we do.
太陽はもうとっくに死んでいるわ(p.229)

わたしたちが死ぬのは太陽が死んだずっと後。

ASS. ERIOPHORA
〈エリオフォラ〉乗組予定(p.230)

ASS は Asteroid Star Ship の略のように思えるが確信はない。

膨大さをを考えると(p.235)

衍字。

Most of the camp's habitable reaches are carved out about twenty meters aft of the hole,
ベースキャンプの居住区のほとんどは穴の後部二十メートルに集中していて(p.236)

穴とは中心部にある量子ループ・ホールのことだろう。

Because you're smart enough to have cut the long way if you weren't.
きみは頭が切れるからね。本気だったら、すぐに手首を切っている(p.241)

縦に切る。

Because the way I am didn't just happen.
自分のあり方が幸せじゃないからよ(p.242)

「自分のあり方が偶然の産物じゃないから」。happy との見間違えか。

The best bootstraps fray in the presence of so much mass.
あまりの大質量の存在に、どこかをつまみ上げることができないのだ(p.243)

自分の髪あるいはブートストラップ(靴のつまみ革)を掴んで沼地から自分を持ち上げる、というミュンヒハウゼン男爵のほら話に由来。質量中心をずらして落ちる航行法をそれになぞらえているのだと思う。

a shielded crystal faceted with grazing mirrors
無数の鏡が切り子面をなすシールドされたクリスタル(p.243)

grazing は微小な入射角のことらしい。エックス線などを反射するにはすれすれの角度が要求されるとか。

We'll experience our freedom in shackles.
わたしたちの自由は大きく制限されたものになるだろう(p.244)

「枷をはめられた状態で自由を体験することになるわけだ」。文字通りの状態。

Neither tech nor technicians can be trusted under the influence of six thousand filigreed Gauss.
六千ガウスの環境下では、細い金属線を多用する技術も技術者も信頼できないのだ(p.244)

複雑な磁力線を金線細工に例えている。

the heart of reconnection
再連結の中心(p.246)

磁気リコネクションという現象があるそうなのでそれかもしれない。普通に神経の再接続かも。

Somewhere nearby people sing in tongues.
どこか近くで数人が声を合わせて歌っている(p.246)

異言の歌。

"Tell me that's not something worth giving a life to."
「今の人類に、命を捧げる値打ちはないでしょ」(p.253)

「(今の人類よりマシな存在を見られるからって)命を捧げる値打ちなんかないと言って」か。

They wanted you here.
どうしてもきみが必要だった(p.254)

「やつらはここにきみが来ることを望んだんだ」か。

"What can I say? It worked." Although not quite the way any of them think.
「どう言えばいいかな? 努力したのよ」彼らが考える努力とはやや違うだろうが(p.254)

「うまくいった。ただし何もかも彼らの思い通りにではない」という感じだろうか。

"Not all it's cracked up to be."
「それがすべてってわけじゃないわ」(p.255)

期待外れだった。

巨星

  • 感想記事
  • 傑作が書けた実感を珍しく覚えたが、特に注目されなくてしょんぼりしたとか。去勢と音が同じだと伝えたら笑ってくれそう。
  • 語り手の口調がやけに幼い。語り手をディクスと勘違いした人もいるのではないか。反乱の経緯を知っている一点だけでもディクスではないことがわかる。

メモ

a passing thought, millennia past its best-before,
千年前の最上の記憶(p.261)

賞味期限を数千年過ぎた思考。

I sample myriad feeds
無数のサンプルを採取し(p.263)

無数の映像フィードをチェックする。

By the time I join him in the flesh
肉体に戻ったハキムと実際に顔を合わせたとき(p.263)

映像ではなく面と向かって、ということ。

every alphabet, every astronomical convention has been exhausted by the stars we've passed in the meantime.
アルファベットも天文学会も、これまでに通過してきた星々のあいだに消えて久しいだろう(p.264)

アルファベットも天文学命名記法もこれまでに通過してきた星々で底をついた。

red-shifted millennia
赤方偏移の千年(p.266)

millennia だから数千年か。旅のスケール的には誤差みたいなものだが。

One complication too many, right?
さすがに複雑すぎるだろ?(p.267)

「厄介事の種はひとつでも望ましくないだろ」。この場合は不規則変光星=知性による信号の可能性。

Out of how many thousand, stored down in the crypt?
ほかに何千人が霊廟に保存されているのだろう?(p.267)

「霊廟に保存されている何千人もの中から、よりにもよってハキムが」という感じか。

that's heat-death incarnate.
熱による死の具現化だった(p.268)

熱的死、でいい気もする。他の heat death 使用箇所にはないハイフンが入っているところが違うと言えば違う。

center of mass
重心(p.269)

「ホットショット」だと center of mass の訳は質量中心となっている。質量中心で統一すべきか。

He hasn't yet considered how that might impact our radiation shielding once we get back up to speed. He's still stuck on whether we can scavenge enough in-system debris to patch the holes on our way out.
船がふたたび速度を上げたとき、その破片が放射線の遮蔽にどんな影響を及ぼすか、考えていないようだ。星系内のデブリを漁って出口の穴をふさげるかどうかしか見ていない(p.270)

破片そのものというか、船から岩塊を投棄することで遮蔽が手薄になるということでは。the holes はおそらく投棄を実行した場合の損傷で、それを修繕するための材料を集めようとしても脱出軌道上に充分な質量がない、という流れだと思う。自信がない。

"then how did you ever get free?"
「どうして〝あなた〟は自由でいられるの?」(p.271)

「(そもそも誰もがチンプとリンクしていたのに)あなたたちはどうやって自由の身になったんだ」か。

The idiot savant
愚かな召使い(p.272)

イディオ・サヴァン

That's why they need me. I let them tell each other that it cheated. No way that glorified finger-counter would've won if I hadn't betrayed my own kind.
だからぼくが必要とされた。チンプがいんちきをしたと吹き込んだのだ。ぼくが同族を裏切らなかったら、結局は指折り計算機にすぎないチンプに勝利の目はなかっただろう(p.272)

「(正々堂々と戦って負けたことを認められない奴らは)ぼくを口実にしている。不正があったのだと言いたい奴らには言わせておく。ぼくが裏切ったのでもない限りチンプが勝てるはずがない、というわけだ」。流れからするとこうだと思う。

the gaping conical maw at our bow.
船首の胃の円錐形をした開口部(p.273)

maw は胃も意味するが、ここは口の意味だけでいいのでは。

Hawking
ホーキング(p.273)

ホーキング放射。

Our center of mass smears a little off-center, seeks some elastic equilibrium between those points. The Chimp nudges the far point farther and our center follows in its wake.
重心は中心から少しずれた位置に引き伸ばされていて、そのあいだには伸縮する均衡力が働いている。チンプが重心を押しやると、中心もその動きに追随する(p.273)

「弾性均衡点を探る」だろうか。between those points は船中心部の特異点とヒッグス導管の開口部との間、the far point は開口部に近い点(ワームホール)と思われるが、よくわからない。ブラックホールワームホールの関係の説明が欲しい。

with lightyears and epochs to play in, even the slowest fall brings us up to speed in plenty of time.
何をするにも数光年を要し、ごく緩慢な落下速度を得るだけで長い時間がかかるのだ(pp.273-274)

「何光年、何万年も余裕があれば、落下が非常に遅い場合でも加速は充分間に合う」。今回は余裕がないので無茶をする必要がある。

pretty heavy on the handwaving
身振り手振りで説明するのは荷が重い(p.274)

handwaving は大仰な身振りをしつつもっともらしい説明をまくしたてて煙に巻くようなごまかしの一種。今回陥った状況はあまりにも特殊で信頼に足る前例もなく、データベースの説明はいかにもそれっぽいだけ、ということではないか。

the drag inflicted by a millionth of a red-hot gram per cubic centimeter, stellar winds and thermohaline mixing,
一立方センチあたり百万分の一グラムの赤熱した質量がもたらす引力、太陽風と熱塩循環の混淆(p.274)

drag は抗力か。thermohaline mixing は恒星表層の分子組成を調整する混合プロセスのことらしい。そのまま検索すると英語の論文が出てくる。目は通していない。

I suppose it's a start.
ここが突破口になりそうだと思った(p.275)

解釈に迷った。この start は「驚き」の意味のように思える。ハキムにとって自分は数に入っていないので驚いた。

a hell of a solstice party.
最高のパーティ(p.275)

夏至祭だろうか。

It's invisible in visible light,
可視光の中の不可視光(p.277)

可視光では見えない。

All we know is that temperature rises overhead and we descend; pressure rises from beneath and we climb.
はっきりしているのは頭上で温度が上昇し、船が下降していることだった。下からの強まる圧力の中を進んでいる(pp.277-278)

「頭上の温度が上がれば下降し、下からの圧力が強まったら上昇していることしかわからない」。スイートスポットを維持している。

We're specks in the belly of some fish in empty mid-ocean
船は何もない大海を泳ぐ一匹の魚の腹にある小さな点だった(p.278)

ヨナ書っぽい記述。太陽を遮る覆い、群がる虫なども符合する気がする。

"Holes," Hakim says softly. "Depressions. Hatches."
「穴がある」ハキムが静かに言った。「減圧が起きてる。ハッチだな」(p.282)

「穴、くぼみ、ハッチ」。入口らしきものの列挙。

It's outside reaching in,
その外縁が手を伸ばしてくる(p.283)

解釈に迷った。手の届く範囲の外、理解の埒外にあるということか。

It bulges, as if inflamed by an embedded splinter;
煽られたかのようにふくれ上がった(p.283)

刺さった棘で炎症を起こしたかのように。

Just meters away.
わずか一メートルほど向こう(p.284)

数メートル。

Say we max the wormhole. Throw out as much mass as we can,
ワームホールを最大にして、できるだけ質量を投棄したとして(p.287)

解釈に迷った。質量を減らすという意味なのか、ワームホールで目いっぱい外側へ押しやるという意味なのか。

"We would also risk significant structural damage due to the migration of secondary centers-of-mass beyond Eriophora's hardlined displacement channels."
「派生的に〈エリオフォラ〉の固定的転移チューブの外に重心が移動するため、重大な構造障害が生じる危険があります」(p.287)

secondary の意味合いがわからない。primary があるってことなのか。centers と複数形になっているのは channels に対応しているのか。hardlined も物理的なラインのことなのか、方向転換の融通が利かないことなのか。よくわからない。

channels は経路の意で、強硬な針路ということだろうか。

  • 自我が実装される媒体のサイズには通信速度に基づいた上限がある、という指摘が新鮮。巨大生命体にも限度がある。
  • 古代文明の遺産として都合よく導入される恒星間交通網、精神アップロードを乗せた超小型宇宙船に対するカウンター。ストロス、イーガンへの挑戦と取れなくもない(もっともワッツは短編をいくつか読んだだけでイーガンの長編を読んだことはないらしい)。先行作を踏まえた上でのひねりが利いている。

メモ

lest the light of your coming turn us to plasma.
あなたたちの来訪がもたらす光によってプラズマに変わってしまわないようにするとき以外(p.301)

「するとき以外」が余計。

"Vons don't see it."
「フォンにも見えないんだ」(p.309)

フォンは(変光を)捉えていない。

"Eighteen mikes,"
「十八光分です」(p.311)

画角の「分」(正確な単位はわからない)では。直後の円錐も視円錐のことか。

but there's no way to mask the power the crypt sucks in during a thaw.
解凍のあいだに墓に注がれる力は圧倒的だ(p.317)

the power は電力だろう。電力消費はごまかしようがないのでチンプにばれる。

But even I would've brought him up to speed.
そんなわたしが育てても、あそこまでひどくはならなかっただろう(p.318)

いくらわたしでも事情の説明くらいはしてあげたはずだ。

That twitchy kid is out of the loop for a reason.
あの子がおかしなループにはまったのには何か理由があるはずだ(p.318)

あの子が仲間外れにされているのには理由があるはずだ。

The thing about I is, it only exists within a tenth-of-a-second of all its parts.
自我というのは全プロセスの中で十分の一秒しか存在しない(p.319)

問題は信号が0.1秒で到達する範囲のことだろう。全ての構成要素がその範囲に収まっていないと自我が分裂する。

Even changing course isn't an option except by the barest increments
コース変更さえ、最小限の加速が得られる場合を除き、選択肢にはならない(p.330)

ごくわずかずつ変更する場合を除き。

the lensing artefacts
レンズ構造物(p.332)
人工レンズ効果(p.360)

artefacts に人工物の意味合いはあるのだろうか。重力レンズによる光の歪みをアーティファクトと言っているふしがある。『ブラインドサイト』でも似たような使い方をしていた。ここはレンズ効果を生じている人工物としてもよさげだが、複数形なのが気になる。

tweak our bearing by a few mikes
出産を数光分ずらす(p.332)

「針路を角度にして数分数 mikes ずらせば」。出産と解釈したのは直前に受精とあるせいか。

Every one of those vectors widens the nested confidence limits of the build.
そのようなベクトルの一つひとつが、構築の入れ子になった限界値を拡大させることになります(p.333)

「信頼区間の幅が広がってしまう」。ネストがどういう処理なのかは知らない。

How can it even conceive of an enemy?
敵を欺くなどということを、どうして島が思いつくはずがある?(p.337)

「敵という概念を思いつくだろうか」。deceive との勘違いか。

idiot savant
阿呆な召使い(p.342)

イディオ・サヴァン

when he just showed up one day and nobody asked about it because nobody ever ...
ある日突然あらわれて、誰もそのことを気にしていない。なぜなら、誰もいなかったから……(p.352)

ずっと不用意な詮索をしないのがルールだったから誰も訊ねようとしなかった、という感じか。自信がない。

I deified that which I could not understand, when in the end it was all too easily understood.
理解できないものを神格化し、理解しやすい形にはめ込んでいた(p.362)

それは結局いとも簡単に理解できるものだった。