ラメズ・ナム “The Use of Things”

2017年12月 Visions, Ventures, Escape Velocities に初出。
分量およそ4600語、日本語訳なら文庫25ページ弱くらい。

あらすじ

月の氷を推進剤として貯蔵する地球近傍燃料補給基地が低軌道に建造され、さらに探査ロボットが軽量安価になったおかげで、宇宙探査のコストは大きく軽減した。そんな小惑星採掘時代黎明期に問われたのは、費用をかけてリスクを負ってなお人間が宇宙に出ていく意義だった。宇宙飛行士のライアンは唯一のクルーとして小惑星探査ミッションに就く。ロボットたちと共に調査を進める最中、アクシデントで地表に固定したテザーが外れ宇宙服も損傷、ライアンはきりもみ状態で宇宙空間に漂い出てしまう。

感想

  • 小型ロボット群が反動質量の役割を担い、ライアンを小惑星の方へと押すことで助けてくれる、というだけのシンプルな話。有人探査の意義を巡って同僚女性と口論するパートもあるが、論点を提示する程度のもの。
  • 自動化時代にあえて有人探査を行うのは、人間は無用ではないという夢を人々に見せるPRでしかないと同僚女性は言う。一方で機械は替えの利く道具、宇宙を定住可能な場所にするための手段であって、大切なのはあくまで人間だ、と帰還したライアンに告げる。素朴な結末。
  • 作用反作用、燃料を打ち上げるための燃料など基本の説明が多い。単純な法則がコストやリスクに直結するわかりやすさ。クラシックな趣で刺激は少ないとも言える。
  • とある高校が授業の一環でバスケットボールより小さなイオンエンジン搭載探査機を月に着陸させた際にかかった総費用は50000ドル、ライアンの宇宙服の費用はその100倍、生命維持装置の費用は宇宙服の100倍との記述がある。数字の妥当性はわからないが、人命というものがいかに重荷なのか端的に示されている。
  • 探査ロボットの〈カルトロップ〉は重さ数百グラム、コアからいくつもの腕が伸びたウニ状の形で、ヤモリよろしくどんな場所にも張りつくことができる。頼れる撒菱。
  • 性別は違うが映画『ゼロ・グラビティ』の主人公の名前もライアン。