ピーター・ワッツ『ブラインドサイト』に関するメモ

原文は著者サイトで公開されているものを、翻訳は2013年10月発行の初版を参照した。

Getting the ship to build some dirt to lie on.
船に寝床でも作らせているんだろう(上巻、p.24)

吸血鬼だから土(dirt)なのだと思う。

Into the drum (drums, technically; the BioMed hoop at the back spun on its own bearings).
ドラムの中に入る(ドラムとは後部がベアリングで開くようになった生体医療ポッドのことだ)(上巻、p.31)

著者サイトでテーセウスの構造図を見るとわかりやすい。厳密に言えばドラム部分はふたつのドラムから構成される。後部ドラムはメインドラムと回転を同調させているが、治療や実験の必要に応じて独自に回転する。

Fidelity in an aerosol.
エアロゾル中毒のようなものだ(上巻、p.40)

ヴァソプレシン吸引による貞節感情の惹起。

It was as though the presence of this new outgroup had forced me back into the clade whether I liked it or not;
新たな外部集団の存在により、おれ自身が手術前に押し戻されてしまったかのようだった(上巻、p.44)

outgroup と clade は系統学用語。動物行動学者のように社会を外部から観察する立場にいたところエイリアンの登場で構図が狂ってしまった、でいいのか。

like daisy petals
デイジー・チェーン配列(上巻、p.50)

ウィンドウをデイジーの花びらのように並べた。

unfocused and irrelevant to the barely-intelligent creatures left behind.
取り残された前時代のコンピューターにとっては、焦点のぼけた、見当はずれの存在だったのだ(上巻、p.61)

ここの the barely-intelligent creatures は人類だろう。

Atoms, scavenged from where we are, join with ions beamed from where we were:
原子は現場で捕捉し、その場で発生させたイオンと融合させて(上巻、p.65)

イオンは地球からビームで送られているってことじゃないだろうか。

The whole drum was furnished in Early Concave,
ドラム全体は浅い凹面状で(上巻、p.68)

凹面時代初期の内装、かな。宇宙時代の建築様式か。

ever since the roster had been announced our watches had blocked calls from anyone not explicitly contact-listed. I'd forgotten that Pag had been.
通話許可者リストに記載されていない人物からの電話をブロックしたとソフトウェアに言われて、パグを登録していなかったことをはじめて思い出したくらいだ(上巻、p.76)

乗船名簿が公表されてから監視役が連絡先にない通話をブロックしていて、パグの音信も途絶えていたもんだから登録していないものと思っていた(実際は登録していたので電話が通じた)ということだと思う。

"That tap lucidum of theirs, that shine. Scary."
「あの独特の輝きは、実に恐ろしいよ」(上巻、p.79)

解剖用語。タペタム(tapetum lucidum)は犬や猫の目に備わる反射板のような組織。

"Meteorites," Bates said dryly.
「隕石だ」ベイツがそっけなく言う(上巻、p.96)

あれのどこが隕石だよとスピンデルを皮肉っている。

"Do these skimmers build Fireflies? Burns-Caulfield?"
「ホタルを作るのはスキマーか? バーンズ=コールフィールドか?」(上巻、p.101)

ホタルを作るのはどちらかではなく、スキマーにはホタルもバーンズも作れそうにないと言っているのだと思う。

And if the best toys do end up in the hands of those who've never forgotten that life itself is an act of war against intelligent opponents, what does that say about a race whose machines travel between the stars?
生きることは知性を持った敵との戦いだということを忘れていない者たちが、最終的に最高の武器を手にしたとしたら、宇宙を渡ってマシンを送ってきた相手のことをどう思うだろうか?(上巻、pp.107-108)

知性ある敵と戦い続けた者が最高の技術を手にするとしたら、恒星間航行技術を持った種族については何が言えるか(激しい好戦性を持っているはずだ)ということかと。

The Glass Ceiling is conscience.
ガラスの天井は意識そのものだ(上巻、p.123)

ここは続く内容的に良心か。

Freeze-frame showed a beam of light frozen solid, a segment snapped from its midsection and jiggled just a hair out of alignment. A segment nine kilometers long. "It's cloaked," Sascha said, impressed. "Not very well." [...] "Pretty obvious refractory artefact."
静止画像で見ると、一条のビームがはっきりと映っていた。スキマーの中央部分がわずかに剥がれ、分離している。長さにして九キロほどのかけらだ。「殻をまとっているんだわ!」サーシャが感動したように叫んだ。「まずいな」(中略)「明らかに耐熱性の人工物だ」(上巻、p.126)

中央部分が折れてわずかに曲がった長さ九キロメートルの光の線分。サーシャは何かが姿を隠していると言っている。続くベイツの発言の artefact は画像の歪みだろう。光の屈折だとすれば光線の記述と合致する。おそらく refractory は refractive の間違い。

「隠れていると言ってもさほど上手くない。光の屈折が丸見えだ。なぜ今まで見えなかった」「背景光(スキマーの航跡)がなかったから」「雲も歪んでいるんだからもっと早く気づけたはず」「他のプローブは歪みを捉えていない」という流れ。

Those nine klicks of displaced contrail had merely grazed the perimeter, cut across an arc of forty or fifty degrees.
分離した九キロの破片がそのそばを、四十度から五十度の角度でかすめた(上巻、p.128)

屈折した部分は九キロもあったが、それすら一部を切り取ったものに過ぎなかった。

Still keeping it concrete.
四人組は落ち着いている(上巻、p.131)

返答は依然として具体的で誤解の余地がない。

a faint sliver of shadow
かすかな銀色の影(上巻、p.148)

silver との見間違い。

スピンデルが片目でちらりとわたしを見て言った(上巻、p.150)

シリの一人称がおれではなくわたしになっている。

It was a strange attractor in the interstellar gulf; the paths along which the rocks fell was precisely and utterly chaotic. [...] "Hey, chaotic trajectories are just as deterministic as any other kind."
恒星間の深淵で起きているにしては、吸収される物質の軌道が奇妙だった。決定的にカオス的なのだ。(中略)「なあ、カオス軌道だって、他のあらゆる軌道と同じく、完全に計算できるんだぜ」(上巻、p.151)

決定論的を「完全に計算できる」とするのはまずい。「決定的に」もまぎらわしい。

"Hey, if the Jew fits..."
「ちょっと、ユダヤ人を持ち出すなら……」(上巻、p.152)

たぶん if the shoe fits (思い当たる節があれば自分のことと思え)の変形。言わんとしていることはさっぱりわからない。ユダヤ系のスピンデルならピンと来たでしょとでも言っているんだろうか。

"Takes too much on faith,"
「信頼を重視しすぎだわ」(上巻、p.154)

ロールシャッハはテーセウス側の返答を鵜呑みにしている。

It's a fallacy really, it's an argument that supposedly puts the lie to Turing tests.
チューリング・テストを騙すための欺瞞、思考実験として考えられたものだ(上巻、p.159)
"But—the argument's not really a fallacy then, is it? It's spot-on: you really don't understand Cantonese or German."
「でも――それは騙したことにはならないわ。筋の通るやり取りができても、あなたが広東語やドイツ語を理解していることにはならない」(上巻、p.160)

ニュアンスが微妙に変わっている。中国語の部屋チューリング・テストの妥当性に疑義を投げかけたもの。

"So he's carrying on a conversation," Chelsea said. "In Chinese, I assume, or they would have called it the Spanish Inquisition."
「それが会話になっているわけね。中国語でってことなんでしょう。スペイン語の異端審問でもいいけど」(上巻、p.159)

あるいは思考実験がスペイン異端審問と呼ばれていたかもね、か。

because I'm more of a conduit than a conversant.
ただの導管というより、通訳だから(上巻、p.160)

むしろただの導管だから。

"Quite the magnetic field," Szpindel remarked.
「磁場を安定させろ」とスピンデル(上巻、p.163)

凄い磁場。quiet との見間違えか。

no refractory composites,
部分の映像(上巻、p.169)

指向性の隠れ蓑によって生じた光の屈折から推定した形のこと。

The basic substrate appeared to be a dense pastry of carbon-fiber leaves.
材質はねっとりしたペースト状のカーボンファイバーで、それが木の葉のように層をなしていた(上巻、p.192)

スピンデルが「悪魔のミルフィーユ城(The Devil's Baklava)」と形容しているのを考えると、ぎっしり詰まったペストリー状の層という感じか。後で内臓みたいに動く描写もされているからねっとりでいいのか。わからない。

but maybe it was really a blessing in disguise.
でも、それは自分を騙してたのかもしれない(上巻、p.196)

父親の不在は不幸のようで実は幸いだったと言いたい。

"I don't see why not. We're each at least as sentient as you are."
「どうして? わたしたちはそれぞれが、あなたと同じ科学者よ」(上巻、p.207)

scientist との見間違い。

created other people to suck up all the abuse and torture
虐待や拷問で別人格を作り出し(上巻、p.213)

虐待や拷問を代わりに受けさせるため。

"Transient Attitudinal Tweak. I've still got privileges at Sax."
「一時的態度微調整」(上巻、p.226

ふたつ目の文は訳されていない。サックスが何を指すのかわからない。会話の流れ的に引退したけど神経をいじる資格ならまだ持っている、と言っているのだろうか。

"Call it a quality-control test. Keep the ship on its toes."
「ポッドがやるのは品質管理だ。船をつねに即応状態にしておくためのな」(上巻、p.247)

自分で確かめるのは品質管理と言っているのだと思う。船が気を抜いていないか確認するため。

I'm more of a safety precaution....
あれは安全上の予防措置以上のものだったようだ……(上巻、p.253)

ベイツの発言「安全上の配慮だと思ってくれ」(上巻、p.180)を思い起こしている。

"Down in Rorschach, I'd have to say all the links are pretty weak."
ロールシャッハにいたとき、リンクがとても弱くなっていた」(上巻、p.253)

ロールシャッハの中ではどんなリンクも脆弱と言わざるを得ない。

Mission Control didn't know shit about Rorschach. They thought they were sending us some place where drones could do all the heavy lifting.
ミッション・コンロトールはロールシャッハなど知ったことではない。力仕事は全部ドローンに任せればいいと思っている(上巻、p.253)

時制が気になる。上層部はロールシャッハなんてものが待ち構えていることを知らなかったし、どこへ向かうにせよ作業はドローン任せで充分と思っていた。一方で「安全上の予防措置」としてベイツを送り込んでもいる。

"If you're going to be surrounded by a swarm of killer robots, maybe—"
「殺人ロボットの群れに取り囲まれることになるのだとしたら、あるいは――」(上巻、p.254)

そうは言っても完全自律型の殺人ロボットに囲まれるのも嫌だろ、と。

the silvery leaded skin
銀張りの人工皮膚(上巻、p.275)

ファラデー・スーツのこと。

Even the tremors that afflicted the rest of his body were muted, soothed by the nicotine he drew with every second breath.
肉体はしばしば震えに襲われていたが、それでも二回に一回の呼吸で吸入するニコチンで、ずいぶん抑えているらしい(下巻、pp.10-11)

ひっきりなしに吸うニコチンで抑制して顔以外に走る震えすら黙らせていた、か。

BioMed had been spun down for my arrival.
おれが到着すると生体医療ポッドが開いた(下巻、p.11)

生体医療ドラムの回転が減速した。

the form-constants
幻覚(下巻、p.11)

ハインリヒ・クリューヴァーが発見した幾何学的な幻覚のパターン。基本形は格子、蜘蛛の巣、トンネル、螺旋の四つ。スパイラルとか配列とか言っているのはこれだろう。

Trunclade
トランキレード(下巻、p.25)

truncate と clade のかばん語らしい。意味は引用されている架空の歌詞からわかるようなわからないような。

to have admitted anything would have compromised her righteous anger.
どんなことであれ、認めさえすれば彼女の当然の怒りを鎮められただろう(下巻、p.30)

少しでも認めてしまえば怒りの正当性が損なわれてしまうから、か。

Our destination resolved to merely human eyes:
たかが人間の目には目的地がぼやけてきた(下巻、p.36)

人間の目にも見えてきた、だと思う。

It was a comfort, that leash. It was short.
ファイバーでつながっているのは安心だったが、長さが足りなかった(下巻、p.37)

リードが短いから奥まで行かなくていい=安心。

One of the surviving grunts grabbed the carcass and jumped ship as soon as we passed beneath the carapace, completing the delivery as we docked.
おれたちは外殻の下を通過して船内に入った。生き残りの兵士の一体が異星人の死体をつかみ、船に飛び移った(下巻、p.43)

兵士は船殻が近づくとすぐに飛び移り、ドッキングする頃には配達を終えていた。

There's not much left inside the membranes. Not many membranes left, for that matter.
細胞膜の内部にほとんど何も残っていなかったんだ(下巻、p.44)

膜自体もそれほど残っていなかった。

"I can see why she'd say that,"
「どうしてそんなことを言ったのかわからないな」(下巻、p.59)

ここは単純に逆。

Even though you have a rod up your ass the size of the Rio Spire.
おまえがケツから世界最大のビルみたいにでっかい旗竿を立てていても(下巻、p.61)

have a stick up one's ass で堅苦しく打ち解けない態度を表す。リオの尖塔はよくわからないが、リオ・デ・ジャネイロキリスト像だろうか。

"Set it up!" she yelled back at Sascha
「確保しろ!」とサーシャに声をかけながら(下巻、p.64)

罠を設置しろ。

the odds of a coin toss.
コイントスのときのハンディキャップ(下巻、p.65)

odds にはハンディキャップの意味もあるようだが、ここには合わない気がする。要するに狙われる確率が二分の一になった。

The scrambler seemed to have thrown off whatever cobwebs our entrance had spun
獲物のスクランブラーは兵士たちが突入時に投げた投網をすべてむしり取ったようだった(下巻、p.65)

こちらの入場で生じた混乱を振り払ったようだった。

Almost as if they were running transects.
まるで解剖するように(下巻、p.78)

トランセクト調査のように、か。

He stood at his post in BioMed,
カニンガムは自分の生体医療ポッドの中に立っていた(下巻、p.80)

ポッドでは棺のようでまぎらわしい。生体医療ドラムの持ち場に立っている。

but even through those topological cataracts
滝が流れ落ちるようなトポロジーは(下巻、p.81)

この場合 cataracts は白内障だと思う。トポロジー的な白内障越しに見ると。

"I didn't know you knew him," I said. It certainly wasn't policy.
「知り合いだったとは知らなかった」もちろんこれは本当だ(下巻、p.82)

交代要員との交流は推奨しない方針。

and once you've laid the groundwork
そのあと基礎工事が始まったら(下巻、p.83)

いったん基礎を築いたら。

methane-breathing medusae
メタン呼吸するメドゥーサ(下巻、p.102)

medusae はたぶんクラゲ。成長して柱から分離するのもストロビラっぽい。

much less tell them I'm...sorry...
ましてや話をするなんて……ごめんなさい……(下巻、p.107)

ましてやごめんなさいと伝えるなんて、か。

"You still don't vote," Sarasti said.
「きみたちはまだ投票していない」サラスティが言った(下巻、p.111)

投票はしないと言っていたのに。誰がどんな票を投じたのかも書かれていない。今回も投票はしないってことか、あるいは中立のシリが投票しなかったのかも。

an alternative to capture-release
捕獲/解放の代替案(下巻、p.112)

捕獲か解放かではなく捕虜解放の代替案だと思う。

Covert to invulnerable. As far as we knew that hadn't happened yet.
無敵の力を秘めているのだ。おれたちが見てきた限り、ごく一部しか破壊できたためしがない(下巻、p122.)

from covert to invulnerable は上巻で「成長して無敵になる」と訳されている。隠れている状態から無敵になりつつあるのかもしれないが、今のところそうなってはいない。

Cunningham didn't like to be played. No one does. But most people don't think that's what I'm doing.
カニンガムは操られるのが嫌いだ。だから誰もそんなことはしないが、みんなはおれがしていると思っていた(下巻、p.124)

操られるのが好きな人なんていない。とはいえ(カニンガムと違って)大抵の人はシリがすることを操りとは考えない。

When they speak aloud, it's because they want to confide;
声に出して何か言うのは、隠したいことがあるからだ(下巻、p.124)

声に出すのは打ち明けたいからだ。

I didn't think about it much at the time.
だが、今はそんなことを考えている場合ではなかった(下巻、p.127)

そのときはちゃんと考えなかった。

the cipher off our starboard bow.
船首右舷に浮かぶラボ(下巻、p.129)

the cipher はロールシャッハか。ラボも同じ方向に浮かんでいるだろうけれど。

"Oh, Sarasti knows. Why do you think he wouldn't let them go?"

続く会話で性別のある人代名詞を使わないはずのカニンガムがサラスティに対して he を使っている。質問企画で指摘されたワッツは初めて指摘されたとしか答えていない。翻訳には反映されていないが、カニンガムの一人称が一部おれになっているところがある(使い分けているだけか)。

a labyrinth full of mind-reading minotaurs
心を読む怪物でいっぱいの迷宮(下巻、p.135)

テーセウスとの関連でミノタウロス

as a node in a distributed network,
割り当てられたネットワークの結節点として(下巻、p.137)

一個の分散型ネットワークのノードとして。

"Which also explains your shielding problems. Partly, at least."
「きみのシールドの問題も、少なくとも一部はそれで説明がつく」(下巻、p.138)

きみ=直前に発言したスーザンではなく、きみたちのって感じだと思う。

By then they were starving her at the cellular level, trying to slow the bug by depriving it of metabolites,
そのころには細胞レベルで飢餓が進行し、ウイルスから代謝産物を奪って勢いを鈍化させる機構が働きはじめたが(下巻、p.146)

この they は病院かも。身体の反応ではなく処置か。

I can't rotate or transform I can't even talk
おれはもう逃げることも話すこともできず(下巻、p.165)

回転や変換といった統合者の技術が使えなくなった。

unusually talkative.
話が聞こえてくることの多い場面だ(下巻、p.171)

珍しく口数が多かった。

"Or they were, before we stopped everything in its tracks."
「われわれも、すべてを止めてしまうまではそうだったのかもしれない」(下巻、p.173)

チンパンジーは意識を持たない方向に進んでいたが、人類はその歩みを止めてしまったということか。

Zombies. Automatons. Fucking sentience.
ゾンビ。オートマトン。感情の欠落(下巻、p.176)

この Fucking は強調だと思う。

Dawkins, Keogh, the occasional writer of hackwork fiction who barely achieved obscurity
ドーキンスや、くだらないフィクションばかり書いているキオのような無名作家(下巻、p.177)

キオは本文で架空の文章が引用されているケイト・キオ。無名と有名の境界にいて型通りのフィクションをたまに書く作家はワッツのことだろう。自虐ネタ。

"He really got to you, didn't he?"
「やられる側の気持ちがわかったろう」(下巻、p.182)

またカニンガムが he を使っている。「随分とやつにやられたようだな」という感じか。

You don't lie to yourself?
自分に嘘をつくってことがないのか?(下巻、p.185)

「自分に嘘をついてないなんて言って、自分が何を知っているのかも知らない」というニュアンスか。

"You were talking around me all along, weren't you? All of you. You didn't bring me in until I'd been—" [...] "—preconditioned.
「ずっとおれを避けていただろう? きみたち全員で。のけ者にすることでおれ自身に――」(中略)「――〝条件づけ〟をほどこそうとした(下巻、p.188)

いわゆる条件付けとはちょっと違う気がする。「遠まわしにおれに言及して議論に参加させなかった、おれが調整を受けるまで」。

You've been hashing this out for days and you went out of your way to cover it up. How did I miss it? How did I miss it?
何日も隠しつづけて、そのあとその事実を隠蔽しようとした。気づかないと思ったのか? そんなはずがないだろう(下巻、p.188)

何日も議論を続け、わざわざそれを隠した。どうしておれは見逃したのか。

"Why should he? He doesn't have to convince the rest of us of anything. We have to follow his orders regardless." "So do I," I reminded her. "He's not trying to convince you, Siri."
「そんな必要がある? こっちは納得してなくたって、命令されれば従うしかないのよ」「それはおれだって同じだ」「あなたを説得しようとしたわけじゃないわ、シリ」(下巻、p.191)

サラスティは(あなた以外の)乗員を納得させる必要はない。命令には従うしかないから」「おれも同じだ」「彼が納得させようとしているのはあなたじゃない(地球だ)」

past hatches and crawlspaces, fleeing the surface for any refuge with more than a hand's-breadth between skin and sky.
ハッチを潜って外殻の下に這い込む。体表と宇宙空間の間には手の幅ほどの厚さの外殻しかない(下巻、p.198)

crawlspaces は床下というより狭い場所くらいの意味か。肌と宇宙との間に手の幅しかないのは観測ドームのことだと思う。それ以上の厚みがある保護を求めて避難した。

barring some temporary pulse effects
電磁パルス効果は甲殻が遮断したので(下巻、p.207)

一時的な電磁パルス効果を除けば。

"Can't afford to let the truth trickle through. Can't give you the chance to shore up your rationales and your defenses. They must fall completely. You must be inundated. Shattered. Genocide's impossible to deny when you're buried up to your neck in dismembered bodies."
「あの時点で真実を出し惜しみする余裕はなく、きみの正当化や保身を補強するチャンスも皆無。そういうものは放棄させるしかない。きみはあふれて砕けることが必要。肉体の破片に首まで埋まっていれば、ジェノサイドを否定することはできない」(下巻、pp.218-219)

自分の見解を他人の見解だと思い込むほどの否認の達人、プロの導管であるシリに真実をしたたらせるように伝えても、正当化や抗弁のチャンスを与えるだけ。確信を抱かせるには真実を一気に氾濫させて導管そのものを壊すしかない。痛みに意識が集中して何もできなくなる状態をその身で味わえば、サラスティの見解を否定することはできない。

"You played me," I whispered. "All this time." I'd known something was going on. I just hadn't understood what.(翻訳版底本)
He'd played me. All this time. Preconditioning me, turning my topology inside-out. I'd known something was going on. I just hadn't understood what.(公開版)

ウェブ公開版の変更点。台詞が地の文になり、「調整を施し、おれのトポロジーを裏返した」の一文が追加された。

behemoths
巨獣(下巻、p.222)

本文中には〈リフターズ〉三部作のタイトルが紛れている。

三つのスキナー(下巻、p.222)

誤字。

Bates broke in from up front.
ベイツが船首側上方から姿を見せた(下巻、p.223)

船首の方から通信してきた。

the robot bounced down the spine, suddenly, mysteriously inert. [...] "Who do you think shut it down, Keeton? The fucker went rogue. I could barely even get it to self-destruct."
ロボットがいきなり、驚くほどぎくしゃくと、脊髄に沿って近づいてきた。(中略)「誰がシャットダウンしたと思っているんだ、キートン? あいつは自制を失った。かろうじて自己破壊に持ち込むことができたんだ」(下巻、p.231)

ロボットが命令を聞かなくなったので強制終了した。いきなり動きが鈍くなったのはそのため。

Mostly, though, it leaves me alone with my thoughts and the machinery ticking away where my left hemisphere used to be. So I talk to myself, dictate history and opinion from real hemisphere to synthetic one:
だがたいていの時間は一人で放っておいてくれ、おれはもの思いにふけり、かつて自分の脳の左半球がやっていたことを機械に代用させた。おれは自分に語りかけた。本物の半球から合成された半球に、歴史と意見を講義した(下巻、p.241)

かつて左半球があった場所で時を刻む機械=人工の半球、か。機器用のスペースはたっぷりあるのだろう。